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2025年サステイナビリティレポートに関する分析:日本製鉄

はじめに

日本製鉄はこのほど、最新の統合報告書を発表した。同社にとっては、電気アーク炉(EAF)を短期的な脱炭素化の主な選択肢に据えて増強を行うと発表するなど、脱炭素化に以前よりも一定程度前向きな姿勢をとるような変化が見られた。今回公表された最新の排出量開示によると、総排出量は前年比で135万トン減少した。ただ、過去の脱炭素化は主に生産量の減少によるもので、何らかの特別な脱炭素化対策を施したが故のものではないため、同社が脱炭素化にまだ完全には取り組めていないことを示している。さらにこの1年をみると、日本製鉄は海外市場で高炉(BF)を継続的に利用していくための投資を行う意向を示しており、グループ全体の観点で脱炭素化を進める取り組みが求められる。

日本製鉄の脱炭素目標:進捗と課題

実際、日本製鉄は排出量を2013年比で30%減となる7,240万トンまで削減するという2030年目標に、徐々にではあるが近づいている。これまでのところ、その主因は効果的な排出削減戦略というよりはむしろ生産量の減少であった。2024年のCO2総排出量は前年比およそ135万トン減少し、7,500万トンとなった。 Transition Asiaの分析では、2013年から2024年にかけての排出削減量に対して、その89%は生産量の減少によるもので、排出原単位の改善によるものは11%と算出された。この数値は、鉄鋼関連事業の効果的な脱炭素化に向けた取り組みがまだ本格的には実施されていないことを示している。

図 1: 日本製鉄の年間生産量と排出量推移

出典:Transition Asia、日本製鉄 1 2 3 4

(すべて単独、非連結)

同社のサステナビリティ・レポートでは、国内の鉄鋼生産による排出を削減するにあたって3つの重要なイニシアチブの概要が示されている:

  1. COURSE50:このプロジェクトは、2008年から技術開発が始まり、BFに炭素回収と水素注入の設備を組み込むもので、理論上のCO2削減ポテンシャルは30%とされる。2026年から小規模試験炉と比較して約400倍の規模となる君津の大型BFで実証試験を始め、2030年度までには本格導入を予定している。また、加熱水素の利用を通じてCO2排出量のさらなる削減を目指すSuper COURSE50については、2024年11月から12月にかけて、12m3の試験炉でCO2排出量を43%削減したことを確認し、2040年頃には大型BFで利用できる技術の確立を目指している。ただし、Transition Asiaの分析によると、この手法による排出量削減のポテンシャルは同じく水素を用いるH2-DRIに比べて限定的であり、移行的な技術にとどまる可能性が十分にあることや、残余排出分がカーボンプライシングの影響を受けるおそれがあるなど、様々な課題がある。 5
  2. H2-DRI日本製鉄は、2025年にR&Dスケール(1t/hr)の小型DRI実験シャフト炉を設置し、2027年にはこれをスケールアップした実証へ進むことを検討するとしている。さらに2040年頃までに商業的な普及を目指しているが、これは世界の同業他社による技術普及に比べるとかなり遅れている。6 中国や韓国、北欧の競合他社は既に実際の供給を開始するなど商用プラントでの実績を積み上げていたり、他国でH2-DRIを生産したのち保管・輸送しやすいようホットブリケットアイアン(HBI)に加工して輸入するプロジェクトを進めるなどしており、さらなるスピードアップがこの分野には求められる。7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
  3. EAF:日本製鉄も参加する政府のグリーンイノベーション基金に係るプロジェクトでは、大型EAFによる高級鋼製造技術の開発を目的に、小型の実験用EAF(10t)が2024年に設置され、試験も開始している。国内の大手EAF企業が通常50トン以上、なかには300トンに達するEAFを操業していることを考えると、この10トン級EAFは小規模なものではある。日本製鉄は2030年に向けてはBF-BOFからEAFへの転換が主要な選択肢であるという説明のもと、政府から最大2,514億円の補助金を受けつつ、総額8,667億円に上る投資を既に今年決定した。広畑ではEAF増設、八幡ではBF-BOFからEAFへの転換、さらに周南ではEAFの再稼働が、それぞれ2029年までに実施される予定となっている。

Transition Asiaの分析では、こうした対策が計画通り実施されれば、主な要因は既に計画されているBFの閉鎖によるものとはいえ、2035年頃までに排出削減目標を実際に達成することができると示された。一方、その後の10年間は、排出量はほとんど変わらないと算出されている。2040年頃にはSuper COURSE50の導入により再び削減が進むものの、ネットゼロの達成は困難との結果になった。

2: 日本製鉄の事業と排出シナリオの比較(非連結):
日本製鉄の企業目標と
Transition Asiaによる2030年までの将来予測

出典:Transition Asia、日本製鉄

海外におけるBFへの投資による環境的影響

日本製鉄は、2025年6月に成立したU.S.Steelの買収に際して、Gary Works第14BFの改修を含むBF・製鋼の生産性・競争力強化や新製鉄所建設(製鉄法は不明)をはじめとする約110億米ドルの投資を2028年末までに行うと約束している。17 これに伴い、スクラップEAF2基(合計生産能力300万トン/年、稼働時期は2029年以降)の新設に40億米ドルが投資されると言われており、脱炭素化にポジティブな影響を及ぼすと考えられる。18 その一方で、31億米ドルはU.S. Steel最大のBFであるGary Works第14BFのBFや周辺設備を含めた改修に用いられると報じられている。19 これは、同社が主要地域においてBFによる鉄鋼生産を継続することを示唆するもので、BFからEAFへの移行という世界的な流れに逆行する可能性がある。Transition Asiaの分析では、投資額1米ドル当たりの年間排出原単位は、新規EAFの場合には0.01kgCO2であるのに対し、Gary Worksで改修を行いBFを継続利用した場合には最大で0.17kgCO2と、10倍以上に上る。10 11

また、2025年3月には、日本製鉄とArcerolMittalの合弁ArcelorMittal Nippon Steel India Private Limited(AM/NS India)がインド南部Andhra Pradeshで粗鋼年産能力700万トン規模の鉄源一貫製鉄所建設用地を取得すると決定した。20 これは、現時点で既にその生産能力を年産900万トンから年産1,500万トンに増強することを決定しているHaziraのプロジェクトとは別のもので、同地の事業はこのHaziraプロジェクトに加えてさらに強化されることになる。21 AM/NS Indiaは、排出原単位について2030年までに20%の削減(2021年比)を目指しているが、2017年から2022年までを振り返ると排出原単位に変化はほとんど見られない。現在入手できる最新データである2022年の値は2.28tCO2/tcsと2021年の2.23tCO2/tcsよりも上昇しており、さらなる脱炭素化対策が急がれる。22 今までのところ日本製鉄はAM/NS Indiaの排出量を自社分として計上していない。出資比率等による要因もあるが、海外事業の脱炭素化も喫緊の課題である。

上述した課題をまとめると、日本製鉄による海外事業における投資と、同社自身が示している脱炭素目標との間で整合性が保たれるのかが次の課題の1つとなっていくだろう。

再エネの調達

Transition Asiaの分析では、EAF鋼材1tあたりの排出原単位は系統電力を用いた場合には0.33tCO2であるのに対し、再エネ100%の場合は0.1-0.05tCO2であるように、EAFによる脱炭素化の効果を最大限発揮するためには再エネの使用が不可欠となる。日本製鉄は、脱炭素電力の購入も今後の検討・推進項目としているが、八幡のEAF転換に伴って、このEAFへの電力供給も含めてLNG火力発電所を4基(総出力2000MW)新設する計画である。23 たしかに、同社によると、これによって電力の原単位は現在の0.73kgCO2/kWhからほぼ半減する。将来的には水素やアンモニアなどの混焼も行い、最終的には水素やアンモニアの専焼に完全移行して、排出原単位を0にする目標としている。24 ただし、再エネと異なり、水素等の混焼や専焼の技術はまだ確立されておらず、実用化までに長期間を要すると考えられるため、それまでの期間はEAFによる脱炭素化のポテンシャルを最大限に生かすことができず、同社が生産するEAF鋼材はいわゆる「グリーンスチール」としての価値を活かしきれないおそれもある。そこで、再エネの調達を積極的に行って鋼材のグリーンとしての価値を最大化し、競合他社に優位性を示すことが求められる。

結論

日本製鉄がその目標を達成するのであれば、グループ全体でBFの継続利用に向けた投資から既に実証済みかつ実績のある脱炭素技術、特にスクラップや低炭素鉄源を利用できるEAFを活用する投資へとシフトすることで、脱炭素化への取り組みを加速させる必要がある。こうした変化がみられない場合、1.5℃目標に向けた排出量削減の進展は限定的なものにとどまり、気候変動目標と事業の持続可能性の観点から企業価値を重要視する投資家の信頼に対して、重大なリスクを抱える可能性もある。

文末脚注
  1. https://www.nipponsteel.com/common/secure/ir/library/pdf/nsc_jp_ir_2025_all_interactive.pdf
  2. https://www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/20250509_200.pdf
  3. https://www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/nsc_en_ir_2024_all_interactive.pdf
  4. https://www.nipponsteel.com/en/csr/report/pdf/report2022en.pdf
  5. https://transitionasia.org/hydrogen-in-iron-making-is-hydrogen-injection-in-a-blast-furnace-the-best-way-to-cut-emissions/
  6. なお日本製鉄が目指すH2-DRIでは原料を低品位鉱石としており、特に欧州が用いている高品位鉄鉱石と比べると技術的難度が高いことには留意する必要がある
  7. https://stegra.com/news-and-stories/h2-green-steel-has-pre-sold-over-15-million-tonnes-of-green-steel-to-customers
  8. https://www.bbac.com.cn/EN/NewsEN/CNewsEN/3099.html
  9. https://www.prnewswire.com/apac/news-releases/posco-holdings-takes-first-step-in-developing-40-000-tons-of-green-hydrogen-production-in-western-australia-301959009.html
  10. https://sustainability.posco.co.kr/S91/S91F10/eng/UI-PK_W009.do
  11. http://www.bmw-brilliance.cn/cn/en/news/news/2022-8-4.html
  12. https://news.bjx.com.cn/html/20230816/1326041.shtml
  13. https://autonews.gasgoo.com/m/70023054.html#:~:text=In%20terms%20of%20the%20supply%20chain%20ecosystem%2C,for%20technological%20innovation%20and%20R&D%20of%20automotive
  14. https://www.steelorbis.com/steel-news/latest-news/baosteel-to-supply-low-carbon-auto-steel-to-beijing-benz-1268735.htm#:~:text=On%20November%2022%2C%20major%20Chinese,green%20steel%20for%20auto%20enterprises
  15. https://www.volvogroup.com/en/sustainable-transportation/sustainable-solutions/green-steel-collaboration.html
  16. https://group.mercedes-benz.com/sustainability/resources-circularity/materials/h2-green-steel.html
  17. https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/20250619_200.pdf
  18. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC203CY0Q5A820C2000000/?n_cid=kobetsu
  19. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN260IA0W5A820C2000000/
  20. https://www.nipponsteel.com/en/news/20250328_100.html
  21. https://www.nipponsteel.com/en/news/20220928_200.html
  22. https://corporate.amns.in/storage/Reports/AMNS-Climate-Action-Report-2024.pdf
  23. https://www.nipponsteel.com/common/secure/works/kyushu/news/2025/pdf/20250411_100_09.pdf
  24. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC02A7F0S5A700C2000000/
データと免責事項

この分析は、情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスを行うものではなく、投資判断の根拠となるものでもない。この報告書は、評価対象企業が自己申告した公開情報に対する執筆者の見解と解釈を表したものである。企業の報告については参考文献を掲載しているが、執筆者はそれらの企業が提供する公開の自己申告情報を検証することはしなかった。従って、執筆者は本報告書におけるすべての情報の事実の正確性を保証するものではない。執筆者および Transition Asia は、本報告書に関連して第三者が使用または公表した情報に関して、いかなる責任も負わないことを明示する。

著者

菅野 聖

リサーチアナリスト