2024年サステイナビリティレポートに関する分析:JFEホールディングス
はじめに
JFEホールディングスの最新サステイナビリティレポートが公表されたが、昨年のレポートからほとんど変化はなく、大きなアナウンスメントもみられなかった。排出量データは同社が2024年の削減目標に徐々に近づいていることを示しているが、排出量原単位データから読み解くと、総排出量の減少は生産調整によるものであって、実質的な減少ではない。これはこれまでJFEホールディングスが採ってきた最も効果的な脱炭素化策が、生産量の削減であったことを意味する。さらに同社は、原料炭プロジェクトへの投資を通じ、BF(高炉)を長期的に継続使用していくというコミットメントを再確認した。Transition Asiaの試算では、こうしたアプローチを変更しない限りは、2050年までにカーボンニュートラルを達成することは困難であることが示されている。
JFEホールディングス
JFEホールディングスが掲げる2030年・2050年目標に鑑みると、2024年には排出量を2013年比で18%減の4,760万tCO2に削減する必要があるが、同社はこれに向けて着実に前進している。ただ留意すべきは、これまでの排出量削減は主に生産量の削減によるものであり、排出原単位は2013年以降大きく変わっていない点である。むしろ2013年に比べて排出原単位がわずかながら上昇したため、我々の分析では、この期間にみられた排出削減に対して109%が生産量の減少によるものであり、排出原単位の上昇は全体の削減量に9%の負の影響を与えたことが示された。少なくとも過去10年間、脱炭素対策がJFEホールディングスの事業活動において欠落していたこと、また鉄鋼生産量の削減が唯一の排出量削減手段であったことを示唆するものである。
図 1: JFEホールディングスの年間生産量と排出総量推移
出典:Transition Asia、JFEホールディングス1 2 3 4 5 (すべて単独、非連結)
なおJFEホールディングスは、最終的にカーボンリサイクル、DRI(直接還元鉄)、EAF(電炉)といった技術で代替する7つの高炉を特定している。これまでに公表されている取り組みには以下のものが含まれる;
カーボン・リサイクル: この技術は既存のBFで用いられるよう設計されており、従来のBFによる生産と比較して、50%の排出量削減を目指している。ただし、小型パイロット炉、これはフルサイズ炉の25分の1の規模だが、この試運転は2025年から2026年ごろに予定されており、まだ始まっていないことに留意する必要がある。なおさらに大きい商業用中型炉(1/4スケール)への導入は、同社の計画では2030年となっている。
直接還元鉄(DRI):DRIプロジェクトは開発段階で、最初のパイロット試験は2024年中に予定されている。この研究開発プロジェクトはH2-DRI(水素直接還元鉄)と銘打たれてはいるが、DRIを生産するシャフト炉はメタン化プラントで生産されるメタンを利用することになっていて、純粋なH2-DRIではない。メタン化プラントで使われる炭素はDRIシャフト炉から回収される副生ガスを再利用し、外部から供給を受ける水素と併せてメタンを合成する。またJFEホールディングスは2022年、伊藤忠商事やエミレーツ・スチール(UAE)と高級鋼の製造に使用する低炭素HBIを海外から調達する契約を締結した。このプロジェクトは2025年後半に始まる予定とされる。
EAF:JFEホールディングスは、倉敷(高級鋼板を生産、2027年から2030年にかけてBFをEAFに転換)と仙台(低品質製品を生産、2024年に既存EAFを改修)のプロジェクトを含むEAF事業の拡大を計画しており、それぞれ年間260万トンと10万トンの排出削減が見込まれる。倉敷の大型EAFについては1年以内に投資を決定する見通し。2025年には千葉にも小型のEAFが新設予定で、最大45万トンのCO2排出削減を見込む。また10tの試験用小型EAFのテストも2024年中に始まる。
JFEホールディングスが保有する鉄鋼生産設備を全体としてみたとき、これらの脱炭素技術がどの程度の割合で使用されるかはまだ公表されていない。EAFは既に成熟・実証された技術で、またH2-DRIはニアゼロ・エミッションの一次鉄鋼を生産する場合に最初に選択される世界でも支配的かつ有力な脱炭素技術である。鉄鋼セクターでは、排出削減ポテンシャルが50%にも達する炭素リサイクル技術は今のところ存在しない。
予定通り2030年頃に倉敷のBF1基が停止すれば、CO2排出量は大幅に削減される。Transition Asiaの分析では、これに加えてさらにカーボン・リサイクル、DRI、EAFの対策が実施されれば、排出量は徐々に減少し続けるという結果が示された。また、2040年代前半には複数のBFが改修(もしくは部分的な補修)時期を迎えると見込まれるため、生産量が一時的に減少し、同社の排出量が1.5℃パスウェイに乗る一助になると予想される。ただ、2045年以降は生産量が以前のレベルに戻ることから、追加の削減は困難で、実際の排出量と目標値とのギャップは拡大、仮に全ての脱炭素技術が計画通りに導入され稼働したとしても2050年時点では最終的に2013年比で65%の削減にとどまり、カーボンニュートラルには届かない。
図 2: JFEホールディングスの製鉄事業と排出シナリオの比較(非連結):JFEホールディングスの企業目標とTransition Asiaによる2050年までの将来予測
出典:Transition Asia、JFEホールディングス1 2 3 4 5
海外における原料炭投資の環境的影響
2024年8月、JFEスチールは日本製鉄とともにオーストラリアで原料炭への新規投資を発表した。これは長期的に石炭ベースのBFを利用していくというコミットメントの再確認といえる。Transition Asiaの分析では、今回の案件については投資額1米ドルあたりの年間排出量が7.36kgCO2に上り、特に2019年に原料炭の供給を開始したバイヤウェン石炭プロジェクト(JFEホールディングスも出資)にかかる排出量、投資額1米ドルあたり4.57kgCO2と比較すると大きな数字であると算出された。さらに、2023年度末においてJFEホールディングスにかかる株式投資1米ドルあたりの年間排出量が4.53kgCO2であることを考慮すると、今回の投資が持つ環境的影響は明らかである。
結論
JFEホールディングスが排出量削減に向けて進むにあたって必要なのは、生産量の削減だけでなく、BFからEAFの拡大・活用への移行をより積極的に進め、低炭素HBIの輸入に一層の重点を置くことである。さらに、原料炭を生産する炭鉱への継続的な投資は、JFEホールディングスにとってはサンクコストであって、仮に既に実証済みの技術に振り向けられた場合、その資本ははるかに効果的に活用される可能性がある。Transition Asiaは、こうしたアプローチが脱炭素に向けた取り組みの確実性・実行性を高め、企業価値を向上させると考える。
文末脚注
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- JFE Holdings 2024 Sustainability Report
- JFE Holdings Financial Results for Fiscal Year 2023
- JFE Holdings 2023 Sustainability Report
- JFE Holdings Report 2023
- JFE Holdings 2022 CSR Report
- IEA Net Zero Roadmap
- https://www.jfe-steel.co.jp/en/release/2024/08/240822.html
- https://www.jfe-steel.co.jp/en/release/2019/190123.html
データと免責事項
この分析は、情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスを行うものではなく、投資判断の根拠となるものでもない。この報告書は、評価対象企業が自己申告した公開情報に対する執筆者の見解と解釈を表したものである。企業の報告については参考文献を掲載しているが、執筆者はそれらの企業が提供する公開の自己申告情報を検証することはしなかった。従って、執筆者は本報告書におけるすべての情報の事実の正確性を保証するものではない。執筆者およびTransition Asiaは、本報告書に関連して第三者が使用または公表した情報に関して、いかなる責任も負わないことを明示する。
Authors
ローレン‧ヒューレット (Lauren Huleatt)
インパクトヘッド
久保川健太
日本アナリスト
菅野 聖
ESGジュニアリサーチフェロー