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2024年サステイナビリティレポートに関する分析:日本製鉄

はじめに

日本製鉄はこのほど、最新の統合報告書を発表した。同社にとっては、株主総会において気候変動に関連する3つの株主提案が提出され、ロビー活動に関する提案への賛成票が気候変動にかかるものとしては日本で過去最多となるなど、波乱に満ちた1年だった。この3つの提案については、いずれも統合報告書では明確に取り上げられていない。今回の最新の排出量開示によると、総排出量は前年比で100万トン増加した。過去の脱炭素化は主に生産量の減少によるもので、電炉(EAF)や水素直接還元鉄(H2-DRI)をベースとした鉄鋼生産への移行はほとんど進んでおらず、同社が脱炭素化にまだ完全には取り組めていないことを示している。さらに、日本製鉄は過去1年間、高炉(BF)の継続的な使用を前提に積極的に投資しており、これはこれまで行われてきた原料炭ポートフォリオの拡大によっても証明されている。

日本製鉄の脱炭素目標:進捗と課題

実際、日本製鉄は排出量を2013年比で30%減となる7,240万トンまで削減するという2030年目標に徐々にではあるが近づいている。これまでのところ、その主因は効果的な排出削減戦略というよりはむしろ生産量の減少であった。だが、2023年のCO2総排出量は前年比およそ100万トン増加し、7,600万トンまで増えた。 Transition Asiaの分析では、2013年から2023年にかけての排出削減量に対して、88%は生産量の減少によるもので、排出原単位の改善によるものは12%と算出された。この数値は、鉄鋼関連事業の効果的な脱炭素化に向けた取り組みがまだ本格的に実施されていないことを示している。

 

図 1: 日本製鉄の年間生産量と排出量推移

出典:Transition Asia、日本製鉄 1 2 3 4 (すべて単独、非連結)

 

同社のサステナビリティ・レポートでは、国内の鉄鋼生産による排出を削減するにあたって3つの重要なイニシアチブの概要が示されている:

 

  1. COURSE50:このプロジェクトは、BFに炭素回収と水素注入の設備を組み込むもので、理論上のCO2削減ポテンシャルは30%とされる。日本製鉄は2023年2月、試験炉と比較して約400倍の規模となる君津の大型BFで実証試験を行うと決定するとともに、2026年度の試験開始に向けて設備導入を進め、2030年度までには本格導入を予定している。ただし、この「本格導入」が完全な商業化もしくは一部の商業運転を意味するのかどうかはまだ明らかでない(最新の統合報告書では詳細な実機化時期が示されておらず、導入スケジュールを示す図ではCOURSE50の試験から直接Super COURSE50の実機化にブリッジするようにも見える。なお資源エネルギー庁のウェブサイトではCOURSE50は「2030年には商用第1号機を稼働することを目標としています」との記述がある)。また、加熱水素の利用を通じてCO2排出量のさらなる削減を目指すSuper COURSE50については、2023年11月から12月にかけて、12m3の試験炉でCO2排出量を33%削減できることを確認した。2024年度中には40%以上の削減を目標に実証試験を進め、2040年頃には大型BFで利用できる技術の確立を目指している。
  2. H2-DRI: 日本製鉄は、2025年にR&Dスケール(1t/hr)の小型DRI実験シャフト炉を設置し、2027年に実証試験を開始する予定としている。2040年頃までにこの技術を商業的に普及させることを目指しているが、これは世界の同業他社による技術普及に比べるとかなり遅れている。
  3. EAF: 小型の実験用EAF(10t)が2024年に設置される予定。国内の大手EAF企業が通常50トン以上、なかには300トンに達するEAFを操業していることを考えると、この10トン級EAFは小規模なものとなる。他方、八幡と広畑を候補地として、BFからEAFへの転換が真剣に検討されている。

 

Transition Asiaの分析では、こうした対策が計画通り実施されれば、主な要因は既に計画されているBFの閉鎖によるものとはいえ、2035年頃までに排出削減目標を実際に達成することができることが示された。一方、その後の10年間は、排出量はほとんど変わらないと算出されている。2040年頃にはSuper COURSE50の導入により再び削減が進むものの、ネットゼロの達成は困難との結果になった。

 

図 2: 日本製鉄の事業と排出シナリオの比較(非連結):日本製鉄の企業目標とTransition Asiaによる2050年までの将来予測

出典:Transition Asia、日本製鉄1 2 3 4

海外における原料炭投資とBFへの投資による環境的影響

日本製鉄は2023年11月にカナダで、2024年8月にオーストラリアで、原料炭への投資を発表しており、石炭を原料に使用するBFをベースとする鉄鋼生産を長期的に継続する意向を示している5 6 Transition Asiaの分析では、投資額1米ドル当たりの年間排出原単位は、カナダのケースで10.18kgCO2、オーストラリアのケースで7.36kgCO2と示された。2023年度末時点で同社にかかる株式投資1米ドルあたりの年間排出原単位が3.43kgCO2であることに鑑みると、こうした投資が大きなカーボンフットプリントにつながることがわかる。

 

さらに同社は、2022年9月にArcelorMittal Nippon Steel India Limited(AM/NSインディア)に対して、BFの新設を含む追加投資を発表。2024年8月にはU.S.Steelの買収提案に関連して、BFの改修を約束している。 このことは、同社が主要地域においてBFによる鉄鋼生産を継続することを示唆するもので、BFからEAFへの移行という世界的な流れに逆行する可能性がある。7 8Transition Asiaの分析では、投資額1米ドル当たりの年間排出原単位は、AM/NSインディアへの投資で2.14~2.71kgCO2、U.S.スチールへの追加投資で34.71kgCO2である。特にU.S.スチールのケースで原単位が高いことから、同社がさらにBF改修への投資を計画していることも考慮すると、環境への影響が懸念となる。したがって、日本製鉄による投資や買収が、EAFへの移行の促進といった確固たる脱炭素化計画に基づくものでない限り、リスクは高止まりしたままとなる。

結論

日本製鉄がその目標を達成するのであれば、BFの継続利用に向けた投資から既に実証済みかつ実績のある脱炭素技術、特にスクラップや低炭素鉄源を利用できるEAFを活用する投資へとシフトすることで、脱炭素化への取り組みを加速させる必要がある。こうした変化がみられない場合、1.5℃目標に向けた排出量削減の進展は限定的なものにとどまり、気候変動目標と投資家の信頼に対して重大なリスクがもたらされる。

文末脚注
  1. Nippon Steel 2024 Integrated Report
  2. Nippon Steel 2022 Sustainability Report
  3. Nippon Steel 2023 Factbook
  4. Nippon Steel 2023 Flash Report
  5. https://www.nipponsteel.com/en/news/20231114_100.html
  6. https://www.nipponsteel.com/en/news/20240822_100.html
  7. https://www.nipponsteel.com/en/news/20220928_200.html
  8. https://www.nipponsteel.com/en/news/20240829_100.html
データと免責事項

この分析は、情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスを行うものではなく、投資判断の根拠となるものでもない。この報告書は、評価対象企業が自己申告した公開情報に対する執筆者の見解と解釈を表したものである。企業の報告については参考文献を掲載しているが、執筆者はそれらの企業が提供する公開の自己申告情報を検証することはしなかった。従って、執筆者は本報告書におけるすべての情報の事実の正確性を保証するものではない。執筆者およびTransition Asiaは、本報告書に関連して第三者が使用または公表した情報に関して、いかなる責任も負わないことを明示する。

私たちのチーム

ローレン‧ヒューレット (Lauren Huleatt)

インパクトヘッド

久保川健太

日本アナリスト

菅野 聖

ESGジュニアリサーチフェロー