日本製鉄の総合鉄鋼事業の国際化: EAFを使用した鉄鋼の分析
要点
- 世界的に低炭素鋼製品への需要が高まりをみせる中、2030年までをみとおすと、鉄鋼生産の脱炭素化を実現する可能性が最も高い方法は電気アーク炉 (EAF)である。
- 国内市場以外で持続的な成長チャンスを求める日本の鉄鋼メーカーにとっては、これは日本製鉄を含むが、グローバルな事業拡大は不可欠である。具体的な青写真としては、再生可能エネルギー由来電力、スクラップ、水素を使用し、低炭素鋼を提供するOvakoの成功が挙げられる。
- 日本製鉄は海外でポジティブな進展をみせており、これは国内でも実現可能である。したがって国内事業にも反映させるべきである。日本の重工業がOvakoのような企業が進める脱炭素化への取り組みと歩調を合わせることができるよう、官民が協力し、投資を引き付けるような、企業にとって魅力的な再生可能エネルギー由来電力の調達方法を提供し、その割合を増やす必要がある。
はじめに
日本の鉄鋼市場は急速な需要減退に直面しており、大手鉄鋼メーカーは国内の生産レベルを引き下げている。この落ち込みを相殺しようと、各社は海外における投資や成長チャンスを積極的に追求してきた。中でも日本製鉄は鉄鋼事業の国際化を順調に進めており、この戦略に沿って、革新的なEAF設備を増やしている。他方で同時に、汚染度の高い高炉-転炉 (BF-BOF) の増強も継続している。
日本製鉄は粗鋼生産量が約4,000万t、2022年度の売上高が500億米ドルを超える、世界トップクラスの製鉄会社である。その事業運営と脱炭素化戦略は、産業界全体に対する重要なメッセージとなる。12022年度のスコープ1とスコープ2を合計した温室効果ガス (GHG) の排出量はCO2換算で7,500万tであったことから、2050年までにネットゼロを達成するためには、製鋼法の大幅な転換が必要になる。日本製鉄は国内外で事業を展開しているが、事業を進める地域によって製鋼法には大きな違いがある。EAF法が主流の海外に対し、日本ではBF-BOF法が主流となっているが、この状況は変わりつつある。
本分析では、日本製鉄が行ってきた最近の投資と買収について解説を行う。この最近の投資や現地企業の買収は、日本製鉄の海外事業と粗鋼生産量の下支えとなるとともに、グリーンスチール生産のチャンスをももたらす。日本製鉄は世界中に広範な二次製品加工設備を保有しているが、本分析では、EAFとBOFによる粗鋼生産に焦点を当てる。現在使われている原料と将来利用されることになるであろう原料、すなわちBFから出銑した銑鉄、スクラップ、直接還元鉄 (DRI) の違いを明らかにし、日本製鉄が2050年に向けて粗鋼生産量を増やしつつも、気候政策の目標を達成できるかどうかを説明する。
日本製鉄の海外総合鉄鋼事業に関する概要
表1のとおり、2023年の日本製鉄の海外事業は同社の粗鋼生産能力の28%を占め、年間1,900万tに達する。
表1. 日本製鉄の2023年における国内・海外の鉄鋼生産能力と割合 (100万t/年、%)2
100万t/年 | 地域における割合 | 全体における割合 | |
国内 | 47.8 | 100% | 72% |
– 国内BOF | 45.7 | 96% | 69% |
– 国内EAF | 2.1 | 4% | 3% |
海外 | 18.8 | 100% | 28% |
– 海外BOF | 4.4 | 23% | 7% |
– 海外EAF | 14.4 | 77% | 22% |
特に、日本製鉄の海外におけるBF-BOFの生産能力は合わせて440万tで、日本製鉄全体の生産能力の7%に相当する。さらに、EAFの生産能力は1,440万tで、日本製鉄全体の生産能力の22%3を占める。これは国内EAFの生産能力を大きく上回り、EAFで生産した鉄鋼は日本製鉄の海外展開において重要な原動力になっている。
日本製鉄の2025年計画によれば、図1のとおり、EAFの生産能力は88.5%が海外で、これにはタイ (22%)、米国 (9.4%)、インド (60.4%)、北欧 (8.2%) が含まれる。
日本製鉄には現在、AcerlorMittalとのジョイントベンチャー (AM/NS India)、最近発表されたUS Steelの買収を含むM&Aに加えて、その他の資本参加や既存製鋼所の拡張といった複数の成長計画がある。海外展開計画の長期ビジョンについては、粗鋼生産能力の約60%を海外事業で支えることが最重要目標とされている。この能力をどの程度グリーンスチールに振り向けられるかが重要であり、足下で短期的に脱炭素化を進めるという意味においては、EAFが最善の生産方法となる。
海外事業におけるEAF
日本製鉄では、海外事業ごとにそれぞれの産業ニーズに合わせて、様々な種類の製品を生産している。例えば、タイのG SteelとGJ Steelによる事業の中心は、普通鋼をはじめとして家電製品、建築用鋼材を含む幅広い用途に使用される比較的低グレードの汎用製品である。一方で北欧子会社であるOvakoは、自動車および産業用途向け熱間圧延品の生産に特化した、欧州有数の軸受鋼メーカーで、様々な機械系の重要部品を供給している。他にも100%子会社であるSanyo Special Steel Manufacturing India (SSMI) は、自動車などの輸送機器やエネルギー部門向けを中心とした特殊鋼の生産を得意としている。また、AM/NS Indiaは、性能要件の厳しい様々な用途に対応する、自動車向け、エネルギー産業向け (風力タービン部品を含む)、高グレードの冷間圧延電気鋼などを供給している。
表2. 日本製鉄の海外のEAF粗鋼生産施設
企業 | 国 | EAF製鋼能力 | 原料 |
G Steel Public Company Limited | タイ | 158万t/年6 | スクラップ90%、銑鉄10% |
GJ Steel | タイ | 150万t/年 | スクラップ90%、銑鉄10% |
ArcelorMittal Nippon Steel India (AM/NS India) | インド | EAF:460万t/年7
Conarc:500万t/年8 |
スクラップ5%、DRIと銑鉄95% |
Ovako AB | スウェーデン、フィンランド | EAF3基 (合計300t)9 | スクラップ97.2% |
Sanyo Special Steel Manufacturing India Pvt. Ltd. (SSMI) | インド | EAF1基 (50t)10 | スクラップ65% |
ArcelorMittal North America (AM/NS Calvert) | 米国 | 150万t/年11 (建設中、2025年完成予定) |
EAFに投入される鉄や鋼材の種類は、最終鋼材の炭素排出原単位を示す主要な指標である。日本製鉄の場合、高品位の老廃スクラップ鋼材から石炭を使用したDRI、高炉から出銑した銑鉄まで、多種多様である。これらの違いが鋼材1t当たりの炭素排出原単位のばらつきにつながっている。日本製鉄の海外事業の中で鋼材の炭素排出原単位が最も低いのは平均0.09tCO2/tのOvako、最も高いのはAM/NS Indiaで、2015年の3.33tCO2/tから減少しているものの、2.28tCO2/tを記録している。
また、海外事業の炭素排出原単位を低減する重要な要素として、再生可能エネルギー由来電力の利用がある。これによってOvakoは排出量の58%、SSMI Indiaは25%を削減している。12 13電力網の排出係数が非常に高いインドやタイといった国では、EAF鋼材の炭素排出原単位は本来達成可能なレベルよりも高くなっている。一方、Ovakoは自社用に再生可能エネルギー由来電力を導入しており、排出量が大幅に削減され、現在ではゼロエミッションに近い。14日本製鉄が保有するEAF設備の完全な脱炭素化を実現するには、再生可能エネルギー由来の電力源へ移行することが不可欠で、その安定した調達が求められる。
世界の鉄鋼業界は現在、スクラップ市場の保護主義化に伴う様々な課題に直面している。脱炭素化と資源効率がますます重視されるようになっており、低炭素鋼の需要が高まる中、多くの国がスクラップの輸出に制限を課している。この保護主義的措置は、国内産業、特に鉄鋼生産にEAFを使用するメーカーの需要拡大に対応するため、貴重な資源を自国にとどめることを目的としている。
この状況を悪化させている要因はいくつかあるが、その最大の要因の1つは、いくつかの国でスクラップ、特に高品質スクラップの不足が生じていることである。この課題を克服するには、スクラップの調達ネットワークを拡大・拡充することや、既存供給者との連携を通じて供給量を増やす可能性を追求するなど、様々な取り組みが必要となる。スクラップを安定的に確保し、日本製鉄のネットゼロ目標を達成するには、調達ネットワークの強化が不可欠である。同時に、スクラップの利用可能量を増加させ、高い等級のスクラップを効果的に確保するには、スクラップ処理施設の高度化が欠かせない。スクラップの等級を適切に選別して処理し、不純物元素などの汚染を効果的に除去する最先端の技術とプロセスの開発が重要となる。
業界全体がEAF向け低炭素原料に関するソリューションを探る中、日本製鉄としては、スクラップ不足を克服できる将来の選択肢として、H2-HBIのサプライチェーンを立ち上げ、拡充する方策を模索すべきである。H2-HBIの利用を促進することで、昨今課題となっているスクラップへの依存度を軽減しながら、低炭素鋼の生産を維持できる。しかしながら、日本製鉄による国際的なHBIサプライチェーンの開発や、DRIに必要となる高品質な鉱石の確保についてみてみると、まだ大きな進展は見られない。対照的に、日本のいくつかの鉄鋼メーカーは鉄鋼業界の動向に合わせて前へ進み始めている。
気候に関する目標
日本製鉄の海外事業は、排出原単位目標や排出の絶対量削減目標など、様々な目標を採用しているが、日本製鉄の国内目標よりも控えめな目標を掲げている事業体については、グループ全体で目標をすりあわせる余地がある。日本製鉄は自社の気候目標を過半数所有子会社にも適用しているとしているが、ジョイントベンチャーの40%を保有するAM/NS Indiaをはじめとする少数株所有事業がグローバルレベルでの排出削減の妨げとなっている。日本製鉄は、過半数所有子会社だけでなく、目標をまだ達成できていない少数株所有事業も合わせた全体で、自社の気候目標についてすりあわせを行い、少数株所有事業への支援を模索すべきである。例えば、AM/NS Indiaは、2030年までに炭素排出原単位を2021年のレベルから20%低減しつつ、2050年までにネットゼロを達成するという目標にを設定している。炭素排出原単位は2015年度の3.33tCO2/tから2022年度には2.28tCO2/tに低下しており、2015年比で33%の低減に成功した。15他方で、排出原単位目標は脇に置き、排出の絶対量そのものについてみてみると2030年には大幅に増加すると予想されている。16これはAM/NS Indiaが操業する製鋼所のBF-BOF製鋼設備の増強と生産水準の引き上げが一因となっている。
他の子会社をみてみると、例えばSSMIは特殊鋼の製造プロセスにおける排出の絶対量を既に約25%削減しており、再生可能エネルギー由来電力の使用による排出削減量は今後、年間最大4万2,500tに上るポテンシャルを有する。17しかし、いまのところ同社には固有の排出量削減目標はない。一方、Ovakoは排出量削減を順調に進め、2015年比で自社活動による排出量を58%削減している。さらに同社は、排出量を2030年までに80%、2040年までに90%削減する目標を設定している。18他方、タイのG SteelとGJ Steelにも日本製鉄のグループ目標を適用すべきであるが、再生可能エネルギー由来電力の調達手段がタイには存在するにもかかわらず、両社の排出量削減に目立った進展は見られない。
US Steelも、取引が承認されれば子会社として日本製鉄の傘下に入る。その場合、日本製鉄の目標である「2030年までに2010年比で排出の絶対量を30%削減+2050年までのネットゼロ」をUS Steelの排出量削減目標とすべきである。現在、US Steelの排出削減目標には絶対量の削減目標は含まれておらず、原単位ベースで2030年までに20%の削減(2018年比)、というものにとどまっている。
ケーススタディ:Ovako - スケーラブルなグリーンスチール生産に向けた計画
Ovakoは、スウェーデンとフィンランドにある3基のEAFを用い、スクラップベースで生産を行う北欧最大級のスクラップ鋼会社である。スクラップベースで生産される鋼材はOvakoが供給する製品のうち97%を占める。19Ovakoは2040年までにスコープ1とスコープ2の合計排出量を90%削減するという明確な気候目標を掲げ、目標達成に向けて着実に歩を進めており、今後も北欧地域で低炭素事業を継続できると思われる。主に域内で調達している鋼材の大半は、十分に確立したリサイクルシステムにおいて確保されたものである。またそのサプライチェーンにおいては、スクラップの再利用を事業とする顧客からスクラップを返却してもらい、用途を変えて再利用するケースもある。
図2. Ovakoの脱炭素化に向けたロードマップ20
Ovakoは最近、圧延機による鋼材の加熱プロセスに電解水素を使用したことで注目を集めた。これはヨーロッパ最大級の水素プラントである。鋼材を加熱する燃料源としてプロパンを代替するアルカリ電解槽は、再生可能エネルギー由来電力により水素を生成する。これによってOvakoは2023年に比べて最大50%の排出量を削減できるとされる。このスウェーデン最大の20MW級電解槽は、Nel Hydrogen、Volvo Group、日立エナジー、H2 Green Steelを含む主要パートナー4社と開発されたもので21、鋼材の加熱以外にも水素をトラックの燃料として使用したり、余剰エネルギーを地域暖房に利用する予定である。さらに、2023年9月には、EVメーカーのPolestarと共同で2030年までに「クライメイトニュートラル」な自動車を製造することを表明した。22
BF-BOFの拡張政策が懸念材料に
日本製鉄は、2030年まで鋼材消費量が持続的に増加するとみて、生産については野心的な長期計画を策定している。需要が大きい地域の生産設備全体を積極的に拡充し、世界全体におけるグループの粗鋼生産能力を1億tとすることを目標に定め、成長が見込まれる地域への資本投下を志向している。23これまでの投資にはEAFを中心とする設備投資もあるものの、AM/NS Indiaの拡張やUS Steelの買収に見られるように、BF-BOF技術を使用したプラントの拡張、BF-BOFへの依存度が大きい企業の買収といった動きには懸念の向きもある。
ケーススタディ:ハジラプラントの拡張
例を挙げると、ArcerolMittalとのジョイントベンチャーであるAM/NS Indiaがハジラプラントの積極的な拡張を発表している。このプロジェクトには製鉄工程と製鋼工程の両方における大幅なアップグレードが含まれていて、最も炭素集約度の高い生産技術がBF-BOFルートに組み込まれている。製鉄工程のアップグレードでは、新設のBFが2基、焼結設備2基、コークス炉3基の追加が行われる。製鋼工程のアップグレードについては、BOF3基と連続鋳造機2基の統合も明らかになった。現在、製鋼所の電力は500MWの自家ガス発電所から供給されているため、当該プロジェクトで導入される新規施設で生産された鋼材の炭素排出原単位は高くなる。24なお必要な資金は、国際協力銀行、三井住友信託銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、Mizuho Europeを含む、日本を中心としたコンソーシアムが提供する。25炭素排出原単位が低い技術としては前述のとおりHBI/DRIやEAFなどがあり、AM/NS Indiaによる拡張計画の公表時点、あるいはその前においても、他社ではこうした技術を取り入れたケースもあったが、今回のプロジェクトはこのような低炭素技術とは大きく異なる。AM/NS Indiaは2030年までにバリューチェーン全体で排出原単位を20%低減する計画であるが(これは日本製鉄のグループ目標である「排出の絶対量を30%削減」とは異なる)、今回のBF-BOFの新設は、高排出技術であるBF-BOFに対処する技術の導入が進まず、結果として日本製鉄がAM/NS Indiaにグループの排出量削減目標を適用できなくなるであろうことを示唆している。
ケーススタディ:US Steelの買収
2023年末、日本製鉄は規制当局の承認を前提として、US Steelを買収すると発表した。米国の鉄鋼セクターは成熟していて、ミニミルが多く、高品質なEAF鋼が製造されている。26米国で生産されている鋼材の70%がEAFによるもので、これはスクラップ市場の成熟度が高くリサイクル鋼材の供給量が多いことが要因とされる。他方、今回の日本製鉄の動きをみると、買収によってUS Steelの生産設備を吸収するということは、米国で最も多くのBF-BOF設備を抱える鉄鋼メーカーの1つが傘下に加わるということを意味する。US Steelは現在、数基のEAFで年間420万tを生産しているが、BFによる年間生産量はそれをはるかに上回る1,820万tに達する。27US Steelも低炭素製品を開発してはいる。特にVerdeXは原料の90%という高水準でスクラップを使用する低炭素製品であるが、ここで疑問とされているのは、「日本製鉄が脱炭素化目標を維持していくにあたって、どのようにUS SteelのBFを脱炭素化するのか」という点である。日本製鉄は既にAM/NS CalvertというAcerlorMittalとのジョイントベンチャーを米国拠点として持っている。仮にUS Steel買収が失敗したとすると、確かに短期的には障害になると思われる。しかし、米国市場への進出・拡大を継続する方向性を維持するのであれば、将来性のある低炭素鋼を生産可能で、かつ市場におけるポジションとしても好適な、炭素集約度の低い米国の鉄鋼メーカーは他にも多く存在する。
提言
海外進出と炭素排出原単位の低減
日本製鉄は、海外事業を拡大しつつ、炭素排出原単位の低減を続けていく必要がある。そのためには、製鋼工程に関係するすべての合併、買収、直接投資が、日本製鉄が掲げる全体の排出量削減目標と2050年までのネットゼロ達成という公約に合致することを確実にしなければならない。日本製鉄が保有するBF-BOFの排出原単位は、世界的な鉄鋼メーカーに比べても既に低減されている。他方で課題としては、生産水準の引き上げと排出量の抑制を別々に両立して達成するためには、すべての新規事業の排出原単位を低減することが求められる。EAFや再生可能エネルギー源のさらなる開発など、よりクリーンな技術に集中することによって、自社の気候変動への取り組みを加速させ、また鉄鋼業全体の排出量を削減するグローバルな動きにおいても、意味のある重要な貢献が可能である。
海外事業における共通脱炭素化目標
日本製鉄が海外事業の脱炭素化目標を設定、策定する上では、ArcelorMittalをはじめとする業界のパートナーと連携した取り組みが重要となる。再生可能エネルギーをEAF工程へ統合することや、EAFに投入する鉄源に関して排出原単位の低減目標を設定することなど、明確な目標の策定に取り組むことで、国内の脱炭素化目標を海外にも広げ、自社のポートフォリオ全体でネットゼロ目標を共通化できる。
国内EAFの展開における海外のノウハウ活用
日本製鉄としてはEAF技術で実績を有する海外企業のノウハウを積極的に活用しつつ、同様の設備を日本国内で開発・実装し、自動車セクターをはじめとする要求の厳しいセクター向けの高品質な鋼材の生産に注力する、という道もある。海外パートナーとの連携を通じて、ノウハウだけでなく、技術の向上やベストプラクティスを効率的に移転させれば、EAFの国内生産能力を強化できる。具体的に言えば、一案として、Ovakoと連携し自動車向けに要求される高グレードな鋼材生産に関するノウハウを活用することが考えられる。
Ovakoの水素電解槽に関する専門知識の活用
Ovakoには既に、水素電解槽に関するノウハウと経験が蓄積している。昨今はH2-HBIと下流における加工工程の両方に関わるインフラ開発とサプライチェーン開発が強く求められており、日本製鉄にはOvakoの知見を活かし、これをリードしていく期待がかかる。Ovakoが有する専門的な知見を活用することで、まず水素を利用する工程の導入を促し、低炭素鉄源のサプライチェーンを確立、さらにこうして調達した低炭素鉄源をEAFへ投入したり、下流の鉄鋼加工を低炭素プロセスへとシフトさせていく。世界の鉄鋼生産国は現在、サプライチェーンを調整しつつあり、水素ベースの鉄源が減ることは考えにくい。日本国内に比べてコスト競争力が高い地域では、日本製鉄がH2-DRIインフラの開発で積極的な役割を果たせる大きな余地がある。こうしたインフラの開発・整備は、サプライチェーンの多様化を通じてコスト効率を最大限に高めつつ、製鉄から製鋼まで工程を垂直統合しこれを維持することにもつながる。
注釈
- 日本製鉄ファクトブック、日本製鉄株式会社、 www.nipponsteel.com/en/factbook/2023/、アクセス日:2024年3月29日
- TAの分析、日本製鉄とGlobal Energy Monitor (GEM)、小数点以下四捨五入
- 日本製鉄統合報告書、日本製鉄株式会社、www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/nsc_en_ir_2023_a3.pdf
- 2023年度第2四半期説明会資料、www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/20231101_300.pdf、アクセス日:2024年3月30日
- 5. 2023年度第2四半期説明会資料、www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/20231101_300.pdf、アクセス日:2024年3月30日
- 2023年度第2四半期説明会資料、www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/20231101_300.pdf、アクセス日:2024年3月30日
- 「ArcelorMittal Nippon Steel Hazira Plant」、Global Energy Monitor、Global Energy Monitor、2023年12月21日、www.gem.wiki/ArcelorMittal_Nippon_Steel_Hazira_Plant
- BO転換とEAFを組み合わせて、溶銑とDRIから粗鋼を生産
- Ovako Sustainability Report Financial Year 2022、www.ovako.com/4b0131/globalassets/downloads/sustainability/sustainability-report-fy2022.pdf、アクセス日:2024年3月30日
- Mahindra Sanyo Special Steel Pvt. Ltd.の製造施設、www.mssspl-india.com/capabilities/steel/manufacturing-facilities.html、アクセス日:2024年3月30日
- 「AM/NS Calvert LLC」、Global Energy Monitor、Global Energy Monitor、2023年10月5日、www.gem.wiki/AM/NS_Calvert_LLC
- Ovako Sustainability Report Financial Year 2022、www.ovako.com/4b0131/globalassets/downloads/sustainability/sustainability-report-fy2022.pdf、アクセス日:2024年3月30日
- 「SSMI Signs Power Purchase Agreement for Renewable Power with Tata Power Renewable Energy Limited」、2023年9月6日、https://www.sanyo-steel.co.jp/system/upload/news_en/230906_en.pdf
- 「Ovako Produces Steel from 100% Carbon Neutral Operations」、2022年8月25日、https://ovako-en.newsroom.cision.com/releasedetail.html?ovako-produces-steel-from-100-carbon-neutral-operations&releaseIdentifier=F9CCA5E21348EE22
- AM/NS India Climate Action Report 2024、https://www.amns.in/storage/Reports/AMNS-Climate-Action-Report-2024.pdf
- 「ArcelorMittal Nippon Steel India Commences Rs 60,000 Crore Expansion Project in Gujarat」、AM/NS India、2022年10月28日、https://www.amns.in/press-releases?press-release=arcelormittal-nippon-steel-india-commences-rs-60-000-crore-expansion-project-in-gujarat
- 2023年度第2四半期説明会資料、www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/20231101_300.pdf、アクセス日:2024年3月30日
- 「Towards a Carbon Neutral Industry」、Ovako、www.ovako.com/en/sustainability/environment/standard-page/#:~:text=Ovako%27s%20goal%20is%20to%20achieve,in%20production%20through%20carbon%20offsets、アクセス日:2024年3月30日
- Ovako Sustainability Report Financial Year 2022、www.ovako.com/4b0131/globalassets/downloads/sustainability/sustainability-report-fy2022.pdf、アクセス日:2024年3月30日
- 出典:Ovako
- 「Our Hydrogen Plant」、Ovako、www.ovako.com/en/about-ovako/our-hydrogen-plant/、アクセス日:2024年3月30日
- 「Polestar 0 Project Partners: Polestar UK」、Polestar 0 Project Partners | Polestar UK、www.polestar.com/uk/sustainability/climate-neutrality/polestar-0-project/partners/、アクセス日:2024年3月30日
- 日本製鉄株式会社、2023年、2022年度有価証券報告書、https://www.nipponsteel.com/en/ir/library/pdf/securitiesreport_2022.pdf
- 「AM/NS India Acquire Port Assets, Power Plant from Essar」、Stainless Steel World、2022年12月12日、https://stainless-steel-world.net/am-ns-india-acquire-port-assets-power-plant-from-essar/
- 「Loan for Joint Steelmaking Business between Nippon Steel Corporation and ArcelorMittal S.A. of Luxembourg through ArcelorMittal Nippon Steel India Limited of India」、2023年3月31日、https://www.jbic.go.jp/en/information/press/press-2022/0331-017626.html
- United States Steel Corporation (X)、2023年12月18日、investors.ussteel.com/sec-filings/all-sec-filings/content/0001104659-23-129657/tm2333774d1_defa14a.htm
- TAの分析、Global Energy Monitor (GEM)
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久保川健太
ESGアナリスト
ローレン‧ヒューレット (Lauren Huleatt)
プログラムマネージャー兼投資担当