見直しが必要な日本のガス依存、 新電炉が出発点に
分析レポート · Transition Asia · 2026年10月
“日本は過去5年で3度目のガス危機の只中にある。電炉への転換が進むなか、その電力をどこから得るかが、次の危機に対する鉄鋼の脆弱性を左右する。”
1つの電炉、2つの電力調達の道
日本は化石燃料の輸入に年間約25兆円を支払っており、ガス価格はこの5年で3度急騰した。2021年1月の冬季の需給逼迫、2022年のロシアのウクライナ侵攻、そして2026年3月のホルムズ海峡封鎖である。同時に、日本の鉄鋼メーカーは石炭を使う高炉から電炉への転換を進めている。石炭の使用は減るが、電力が主要なインプットとなり、鋼材1トン当たり約650kWhを必要とする。
日本製鉄は八幡に年産能力200万tの電炉を計画し、2031年から自家用の2GW LNG火力発電所で電力を賄う。本レポートはこれを、ガス路線が実際に何を意味するかを示すケーススタディとして用いる。同じ電炉の電力を、自家用LNG火力で賄う場合と、九州の系統電力と再エネ契約で賄う場合に分け、2020年〜2026年半ばの実際の価格と、2029〜2045年の4,000通りの将来シナリオで比較した。
ガス路線は、LNG危機の影響を鉄鋼のコストに持ち込む
自家用LNG火力は、燃料価格をそのまま鉄鋼のコストに変える。その排出量は発電所の寿命の間固定される一方、競合する系統電力は年々クリーンになる。
LNG価格別の鋼材1トン当たり電力コスト(円/t)
排出係数、kg-CO₂/kWh
主な調査結果
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価格ショックは、そのまま鉄鋼のコストに波及する
長期契約の保護は回を追うごとに弱まり、ガスへのコミットメントは長くなる
燃料備蓄は数日分、LNGの供給途絶は数か月
ショックが重ならない限り、燃料リスクは利益のリスクであり、支払能力のリスクではない
系統電力は稼働前にLNG火力を追い越し、鋼材はニアゼロ基準を上回り続ける
コストではLNG火力が勝るが、系統電力はガスのリスクを分散する
代替案:系統電力と再エネ契約
| 系統電力+再エネ契約 | 自家用LNG火力 | |
|---|---|---|
| 電力のもとになる燃料 | 原子力、石炭、太陽光、ガス、水力、地熱 | LNGのみ |
| 燃料調達 | 複数の基地、電力会社のポートフォリオ、連系線 | 共同利用の基地一つ、出資比率分で約11日 |
| 価格の保護 | 固定価格の再エネ契約 | 未締結のLNG契約次第 |
| 排出量 | 系統電力とともに毎年減少 | 発電所の寿命まで固定 |
| ニアゼロ鉄鋼 | 系統電力の脱炭素化に伴い、2040年頃までに達成 | 0.359kg/kWhでは達成できない |
この路線はすでに使われている。日本製鉄自身のスロバキア・コシツェの新電炉は、2030年から系統電力で稼働する。
柔軟な溶解が、余剰電力を安価なインプットに変える。九州では2023〜2025年に毎年、太陽光発電量の4.5〜9.1%が出力制御された。溶解をその時間帯に移せる電炉は、安価でクリーンな電力を買える。
必要な転換
これから建設される電炉は、まだ決まっていない。
鉄鋼メーカー
次の電炉は、炭素コストと低排出鋼材の供給のポテンシャルを含め、全寿命期間にわたって系統電力+再エネ契約と比較する。24時間供給可能なクリーン電力を契約し、柔軟に溶解できる電炉を建設し、ガスへのコミットメントは短期かつ切り替え可能にする。
投資家
燃料コストだけでなく、炭素コストと複合ストレスのリスクを価格に織り込む。次の電炉に投資する前に、系統電力との比較、LNG契約構成とその期間、確実な備蓄の権利、想定する炭素価格、鋼材を低排出としてどう販売するかを求める。
政策立案者
グリーンスチール税額控除に、使用電力の炭素集約度の要件を加える。産業が24時間購入できるクリーン電力に資金を充て、新設電炉の系統接続は電力会社や送配電事業者と共同で計画する。新設の自家用化石燃料発電には、GX-ETSの無償割当を与えない。
基準ケース:発電効率58%(LHV)、0.359kg-CO₂/kWh、650kWh/t、150円/ドル、LNG契約構成は原油連動44%・米国ガス連動36%・スポット20%。本稿は情報提供のみを目的としており、投資助言ではありません。本レポートは、公開情報に対する著者の見解と解釈を示すものです。

