
JFE、グリーンスチールに向けて決定的な一歩:新たな電炉の導入を発表
発表の概要
2022年に初めて構想が公表されておよそ2年半、JFEは倉敷地区において大型革新電炉(EAF)の建設・稼働を進めると正式に発表した。 1今回のプロジェクトでは、革新型のEAFをはじめ、炉外精錬設備、冷鉄源物流設備、既存岸壁の改良など、複数の施設が新たに建設される。総投資額は3,294億円(約22億米ドル)にのぼるが、そのうち最大1,045億円が政府補助金で賄われることとなっている。新設されるEAFの年産能力は約200万tで、稼働開始は2028年度第1四半期を予定している。
JFEが政府の脱炭素支援を活用し一歩先へ
日本では、クライメート・トランジション利付国債(いわゆるGX経済移行債の1つ)を通じて、高炉・転炉法(BF-BOF)からEAFへの転換に対し、最大で投資額の3分の1が補助される制度がある。
図1. 政府補助金が粗鋼の平準化コスト(LCOS)に与える影響2
CAPEXはLCOSに占める最大の要因というわけではないが、本件補助金が最大額支払われた場合、LCOSはそれぞれスクラップ、天然ガス由来のHBI(ホットブリケットアイアン)、水素由来のHBIを原料に使用した3ケースの平均で約4%低下するとみられる。これは一般的に利益率が低い鉄鋼業界にとっては無視できないほどの影響となる可能性が高い。
政府の支援でコスト競争力のあるグリーンスチール生産が可能に?
2024年度の税制改正で導入された戦略分野国内生産促進税制では、いわゆるグリーンスチールの生産・販売に対し1tあたり2万円の税額控除が認められている。3この制度では徐々に控除額が減ってはいくものの控除は10年間続き、平均すると毎年1tあたり1.7万円(約112米ドル)の控除を受けられるという非常に手厚いものとなっている。 この制度の適用条件は主に以下の4つ、1. BF-BOFからEAFへの転換であること、2. BF-BOF鋼材と同程度の品質の鋼材を生産すること (普通鋼の場合には窒素濃度が0.004%以下かつリン濃度が0.015%以下、ステンレス鋼の場合には窒素濃度が0.015%以下かつリン濃度が0.04%以下)、3. CAPEXが120億円以上であること、4. 年度当たりの生産量が20万t以上であること、と定められた。今回新設されるEAFは2028年までに倉敷地区の第2高炉をEAFに転換するものであるため、上記の条件のうち1、3、4は既に満たしており、さらに電磁鋼板や高張力鋼板などの高品質・高機能鋼材の生産を予定していることから、2の品質条件も含めて全ての条件を達成しうるものと考えられる。
図2. 税額控除が粗鋼の平準化コスト(LCOS)に与える影響4
JFEはEAFで生産する鋼材の原料として、スクラップ、中東で生産した天然ガスHBIの輸入、そして将来的にはグリーン水素由来HBI(H2-HBI)の輸入、という3つの手段を想定しており、現時点では天然ガスHBIが主力となる見込みである。1 5 スクラップは含まれる不純物を完全には取り除けないことから高品質鋼や高機能鋼の原料としては限界があり、ガスHBIも製造段階でのCO₂排出やメタン漏出といった環境負荷が残る一方、H2-HBIの輸入は今回の税額控除制度を活用することでコスト増を抑えつつ、ほぼゼロエミッションで高機能・高品質な鋼材を製造することができるため、今回発表された新たなEAFプロジェクトにおける有望な原料候補となりうる。日本では2032年以降に炭素価格の引き上げも予測されており、H2-HBIとBF-BOFのコスト差はさらに縮小すると見込まれる。6 7 また、日本国内では低炭素鋼材の需要が堅調に推移しているため、本プロジェクトは今後のモデルケースとして、国内の競合他社にも波及効果を与える可能性がある。
文末脚注
- https://www.jfe-steel.co.jp/en/release/2025/04/250410.html
- 炭素価格 = 0米ドル/tCO2, 水素価格 = 3米ドル/kg
- https://www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/250090.pdf
- 炭素価格 = 0米ドル/tCO2, 水素価格 = 3米ドル/kg、期間は10年間で
- https://www.jfe-steel.co.jp/en/release/2022/220901.html
- https://icapcarbonaction.com/en/ets/japan-gx-ets
- https://www.mri.co.jp/en/knowledge/article/20250411.html#:~:text=The%20newly%20introduced%20carbon%20pricing,(FIT)%20program’s%20FY2032%20figures
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Author

菅野 聖
ESGジュニアリサーチフェロー(日本担当)