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JFE 定時株主総会インフォメーションパック (2026年)

はじめに

JFEは2025年に「長期ビジョン」や「第8次中期経営計画」を公表するとともに、こうした戦略の実現に向けていくつかアクションを取った。しかしながら、同社自身が設定した気候関連目標に沿った情報開示の向上や技術開発など、従来Transition Asiaがインフォメーションパックで特定した懸念事項の多くが残されている。本レポートは、来たる定時株主総会に先立ち、JFEが取り組む脱炭素化における最近の進捗をレビューし、現在JFEが歩を進める道に包含される潜在的なリスクを特定する。

エンゲージメントにおける主要な論点:
  • 総排出量の低減は低迷する需要に応じた生産調整に起因する可能性が高い。一方で、生産量の削減に大きく依存する現状から脱却しJFE自身を目標未達のリスクから保護するためには、技術的な排出削減を加速させることが重要になる。
  • JFEはインドのJSWスチールをはじめとする合弁企業に関連する排出量を、現時点では同社の主要なGHG(温室効果ガス)報告範囲の一部に組み込んでいない。投資家から全体的な戦略への信頼を獲得するには、海外資産に関する透明性と開示を高めることが極めて重要である。具体的には、世界的な事業拡大構想における排出原単位や、脱炭素化目標を詳細に説明することが求められる。
  • 中東を中心とする地政学的緊張の高まりによってエネルギー価格のボラティリティにまつわるリスクが浮き彫りとなっている。これは、脱炭素化目標を達成し事業のレジリエンスを確保するために、信頼できる低炭素エネルギー源への移行を加速させる必要性を補強するものである。
脱炭素化の進捗

JFEの報告によると、2024年度のGHG排出量は2013年度比で23%減少した。1長期ビジョンや第8次中期経営計画の下では、2027年度までに同年比24%の削減、また2030年度までに同年比30%以上の削減という目標にコミットしている。

以前指摘されたように、2013年度から2024年度にかけて観察された800万トンに上る排出削減の主因は、省エネや技術的な効率の向上ではなく、生産量の削減に大きく起因するものだった。2この事実は、今日までの進捗が、生産プロセスから炭素を取り除く技術的な変化というよりも、主に事業の縮小がもたらした副産物であることを示す。

技術主導の削減へと方向転換するために、JFEは高炉(BF)を7基から5基へと削減し、2028年までに「革新電気炉」(EAF)を稼働させることによって、体制を再構築する方向である。3同社は、2030年度の目標を達成するにあたって、具体的に400万トンのGHG削減が省エネや新たな技術の開発から可能であると予測している。これは従来の生産量調整への依存から転換を図るシグナルと言える。4

JFEは2025年度のIR資料で、今後3年間にわたるカーボンニュートラルへの取り組みに対する投資として、最大1,000億円(6億2,900万米ドル5)の設備投資について概要を説明した。優先事項としては、スクラップ利用の拡大や直接還元鉄(DRI)の投入、東日本製鉄所(千葉)のステンレス鋼生産におけるEAFへの移行、また西日本製鉄所(福山)のコークス炉更新、そして2028年までに「革新電気炉」を稼働させることなどが含まれる。6

図1は、JFEがBAU(現状維持)シナリオにおいては短期的なコミットメントを達成する軌道に乗っていることを示唆している。一方で、排出量削減が構造的な脱炭素化ではなく、現在は生産量の縮小がその主因であると示している点に留意することが極めて重要である。さらに、JFEが海外資産が排出するGHGの量を開示していないため、投資家やその他のステークホルダーは、JFEのグローバルな排出量を反映した排出量予測を描き出すことができない。生産調整への依存は、深い技術的介入が必要とされる2040年以降も同社がこの軌道を維持することができるのか、その実現可能性について、重大な懸念を生じさせている。

図1:BAUおよび企業目標とJFEの排出量推移

出典:JFE、 Transition Asiaによる分析7 

注:データはすべて非連結
脱炭素化への取り組みと技術開発の進捗

1.スクラップの利用拡大:

2025年度のKPIとしては、生産プロセスで発生する高品質スクラップである自家発生スクラップ(リターン屑)の回収量と利用量を、第7次中期経営計画中の平均量から倍増させるという目標を設定していた。8

2.カーボンリサイクル:

従来のBFプロセスと比較してCO2排出量を50%以上削減することを目指し、同社が「超革新高炉」と呼ぶカーボンリサイクル高炉は、いまのところ実証フェーズにとどまる。この技術は、生産プロセス内で炭素をリサイクルするためのメタネーション設備と統合された、酸素およびe-メタンの大量吹き込みを主眼としている。操業テストは2025〜2026年度まで継続される予定となっているが、2025年5月の情報開示以降、注目すべきアップデートはない。9

3.DRIの投入:

JFEはEAFで高級鋼を生産するにあたって将来的なスクラップの供給不足を見据え、スクラップ量補う方法として、DRIの投入に関する検討を既に開始している。2024年以降、小規模な実証シャフト炉(15kg/h)が稼働しており、100%水素と低品位ペレットを使用した連続的なDRI生産の実証に成功している。ただし、この技術のスケールアップに関しては、最近はアップデートが見られない。また、JFEは2021年にBHPと、BFとDRIの投入を伴うオプションを共同で検討するための覚書を締結したものの、そのアップデートもいまのところはっきりしない。10

UAEでは、グリーン鉄向け鉄鋼原料の供給確保することを目的に、2023年に伊藤忠商事およびエミレーツ・スチール(EMSTEEL)との間で覚書が交わされた。このプロジェクトはJFEの排出削減戦略において極めて重要な要素である。UAEで生産される低炭素鉄鋼原料の安定供給を確保するとしていたこの合意は、2028年度までに始まると見込まれる倉敷地区のEAF稼働をサポートするために、年間最大250万トンのDRIを視野に入れていた。11 12ただ、JFEは2025年5月、代わりに2028年度から東日本製鉄所(千葉)においてDRIの投入を開始する予定であると発表した。13注目すべきことに、このDRIは、EAFを中心とする生産プロセスへと直接移行するのではなく、BFによる生産を補強するために投入される予定である。これは以前に予想されていたよりも、JFEが段階的な排出削減アプローチをとろうとしていることを示唆している。

4.千葉のEAFステンレス鋼:

2026年4月には、東日本製鉄所(千葉)の第4製鋼工場で70トン級EAFの操業を新たに開始した。これによって年間最大30万トンのスクラップ溶解能力と、年間最大45万トンのGHG排出削減効果を有することになる。14同製鉄所は、原材料として製鉄所内部で発生したスクラップとBFが生産する溶銑を投入しステンレス鋼を生産するため、一次原料から発生するGHG排出量を削減することができる。設備投資額は約180億円(1億1,320万米ドル)であった。15

5.革新電気炉:

JFEは倉敷地区で、約200万トンの年産能力を特徴とする「革新電気炉」の導入を進めている。約3,294億円(20億7,000万米ドル)という多額の設備投資が必要で、そのうちの最大3分の1は経済産業省が補助金によって支援することが決まっている。16さらに2026年3月、経済産業省が所管するGX推進機構が、民間金融機関から受ける融資に対して最大1,800億円の債務保証を提供することを発表した。これは融資の50〜80%に相当する。17倉敷の革新電気炉は、200万トンの年産能力を有していることからJFEが掲げる2030年度にグリーンスチールを300万トン供給するという目標にとっては極めて重要である。ただしJFEは、この目標には、ある拠点でGHG削減技術によってもたらされた削減量をその他の製品に割り当てる手法が含まれるとしている。これは、JFEが供給する「グリーンスチール」の多くがが、技術によって直接的な排出削減をして生産された低炭素鋼材そのものではなく、会計的手法による排出量の移転に依存して生み出されたものであることを意味する。この会計的手法を世界的に受け入れ、認めるべきかどうかについては、現時点で国際的な議論となっている。JFEのアプローチが認められない可能性もあることから、グローバルシェアを維持・拡大するとしている同社がリスクにさらされるおそれがある。

2025年度の注目すべき動向
  • GXスチール製品の開発: JFEは、オフテイク契約を通じて、同社のグリーンスチールブランドである「JGreeX™」の普及を加速させてきた。これに関連して、トヨタが2025年11月に、また日産が2026年1月から新型「リーフ」EVモデル向けに調達を開始すると発表した。18 19さらに、2026年4月にはデータセンターの脱炭素化を目的にアマゾンウェブサービス(AWS)と覚書を締結している。20このパートナーシップには、2028年度に稼働開始見込みの倉敷の革新電気炉が生産する鉄鋼の調達が含まれると同時に、グリーンイノベーション基金が支援するカーボンリサイクル高炉や水素直接還元プロセスの両方を活用した、将来的に低炭素鋼材を生産していく際の基礎を築くものとされている。
  • 生産体制の再編: 2026年4月、JFEは薄板生産の戦略的再編を発表した。これは京浜地区の酸洗ラインを休止し、他地区に集約する計画を伴うものである。21これに続いて、2026年5月には、2027年4月に形鋼事業を再編する概要を示す次なる発表が行われた。22これにより福山地区の形鋼生産は、傘下のEAF鉄鋼メーカーであるJFE条鋼株式会社へと移管されることとなる。建設・土木セクターは人件費と資材価格の高騰による強い逆風に直面しており、再編はこの国内需要の低迷に対応するものである。
  • 売上と最終損益の分析: 2025年度の決算では、生産量の減少だけが収益が低迷する原因ではない可能性がある、ということを示唆している。JFEの売上高や利益をみると、原材料価格の変動や競合国の過剰供給を受けた汎用品のスプレッド低下に起因する可能性が高い。23すなわちスプレッドが圧縮されたことがもう1つの大きな要因であった可能性がある。収益が伸び悩んでいる要因を確実に特定するにはさらなる情報が必要ではあるが、JFEが価格を自身で決定できるような状況を作り出し、輸出競争に係るリスクを低減できる可能性があるとすれば、それはグリーンかつ高品質・高機能な鋼材へのシフトであろう。今回の決算ではこのシフトに沿って資金と生産能力を再配分することの経済的根拠や合理性を補強するものであった。24
脱炭素化戦略の潜在的ギャップ
  • 目標設定: 昨年のインフォメーションパックでも指摘したが、グループ全体のスコープ3排出目標は今のところまだ設定されていない。グローバルなカーボンフットプリントが特にインドで拡大していくことを踏まえると、海外のオペレーションで透明性の高い開示とコミットメントが確実に担保されている、という状況を作らなければならない。
  • 役員報酬: JFEは役員報酬を気候変動指標に連動させることで、日本の他のBF鉄鋼メーカーに先んじて、グローバル基準のベストプラクティスに向けた一歩を踏み出した。しかしながら、昨年のインフォメーションパックで言及されたように、より野心的なKPIとすることによる改善の余地がある。25例えば、総排出量のみに連動している現在の指標に加えて、原単位ベースの目標を報酬制度に組み込むことも検討する価値がある。26 27
  • 気候政策へのエンゲージメント: JFEには、会計的方法よりも物理的な排出削減を優先するグリーンスチールの定義を提唱し、採用することが推奨される。日本鉄鋼連盟(JISF)で枢要な位置を占める会員として、JFEはグローバルな競争力を維持・強化するために、日本特有のアプローチではなく、世界基準との整合性を推し進める能力を有している。
  • カーボンロックインへの投資: 印JSWスチールとの協業では、インド東部の鉱山に係る権益に加えて、年間450万トンの粗鋼生産能力を有する一貫製鉄所を整備する合弁企業に2,700億円(17億米ドル)を投資する計画である。28報道によるとJFEは年産能力1,500万トンを目標としており、将来的にはBFを含めた追加投資の可能性もある。29JFEは国内では排出量を削減しEAFへ移行しつつある一方、このインドでの投資は脱炭素化に向けた世界的な動きに逆行するもので、近い将来、インド鉄鋼業界がBFへの依存を強める可能性があることには留意が必要である。
脱炭素化に必要なアクション

「グリーン化」が進むグローバル市場で、各企業が直接的な排出削減を示す指標に基づいて低炭素鋼材を調達し始める中、JGreeXをはじめとする製品の信頼性を確保することが重要になってくる。この点、JFEの脱炭素化戦略においては、排出削減と製品との間の物理的な結びつきをさらに明確に組み込むことができる余地がある。また、2026年3月に発表された西日本製鉄所(福山)にある福山共同発電所新1号機の停止は、ホルムズ海峡の封鎖によって重油の調達が滞ったために余儀なくされたものである。30これは、代替エネルギーが存在する状況で、化石燃料による発電に依存することがいかに地政学的な変化に対する脆弱性を高めるかを示すタイムリーな事例となった。このようなボラティリティへの対処としては、JFEは、同社のエンジニアリング部門の例を参考にすることもできる。31すなわち、エンジニアリング部門は非化石燃料電力を90%以上とする目標を掲げていることから、このように野心的なKPIを全社的に反映し、非化石エネルギーへの移行を加速させることができるのではないか。さらに、インドといった新興市場でJFEのグローバルなカーボンフットプリントが増加していくと見込まれていることを踏まえると、新興国関連の投資には、スコープ3について透明性のあるコミットメントと、十分な開示がセットとなることが不可欠である。加えて、「革新電気炉」への投資によって実現する高級鋼の供給は、JFEがBF由来製品への依存から脱却し、同時に、日本に比べれば低品質だが安価な鉄鋼で国際市場を席巻する競合他社に対して、自社を差別化する機会となる可能性があることも指摘しておきたい。

JFEの脱炭素化戦略の成功は、同社のEAFと低炭素投資を、厳しさを増す世界的なベンチマークや条件に合致する製品を提供するために活用することにかかっている。

文末脚注
  1. https://www.jfe-holdings.co.jp/uploads/2024-chuuki.pdf
  2. https://www.jfe-holdings.co.jp/common/pdf/investor/climate/environmental-management-strategy250529-01.pdf
  3. https://azcms.ir-service.net/DATA/5411/ir/140120260507518774.pdf https://www.jfe-holdings.co.jp/investor/library/
  4. https://www.jfe-holdings.co.jp/common/pdf/investor/climate/environmental-management-strategy250529-01.pdf
  5. 特記ない限り、為替は1米ドル159円で計算(5月29日のレート)
  6. https://www.jfe-holdings.co.jp/uploads/2024-chuuki.pdf
  7. 注:この分析において提示されている排出量予測と企業目標は、JFEの海外資産と合弁企業(例:インドのJSWスチール)を除外している。同社の主要なGHG報告範囲内に含まれていないためである。
  8. https://www.jfe-holdings.co.jp/common/pdf/sustainability/sus/materiality/2025_kpi.pdf
  9. https://www.jfe-holdings.co.jp/investor/climate/
  10. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2021/02/210210.html
  11. https://www.jfe-holdings.co.jp/sustainability/environment/climate/
  12. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2023/07/230718.html
  13. https://www.japanmetaldaily.com/articles/-/239639
  14. https://www.japanmetaldaily.com/articles/-/259261
  15. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2026/04/260430.html
  16. https://www.jfe-holdings.co.jp/uploads/2024-chuuki.pdf
  17. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA191IN0Z10C26A3000000/
  18. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2025/11/251111.html
  19. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2026/01/260129.html
  20. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2026/04/260427-1.html
  21. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2026/04/260402.pdf
  22. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2026/05/260508.html
  23. https://azcms.ir-service.net/DATA/5411/ir/140120260507518768.pdf
  24. https://www.jfe-holdings.co.jp/investor/library/
  25. https://transitionasia.org/jfe-%e5%b9%b4%e6%ac%a1%e6%a0%aa%e4%b8%bb%e7%b7%8f%e4%bc%9a%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%95%e3%82%a9%e3%83%a1%e3%83%bc%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%83%91%e3%83%83%e3%82%af%ef%bc%882025%e5%b9%b4%ef%bc%89/?lang=ja
  26. https://www.jfe-holdings.co.jp/release/2023/0329/000233/
  27. https://transitionasia.org/jfe-%e5%b9%b4%e6%ac%a1%e6%a0%aa%e4%b8%bb%e7%b7%8f%e4%bc%9a%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%95%e3%82%a9%e3%83%a1%e3%83%bc%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%83%91%e3%83%83%e3%82%af%ef%bc%882025%e5%b9%b4%ef%bc%89/?lang=ja
  28. https://www.jfe-steel.co.jp/release/2025/12/251203.html
  29. https://asia.nikkei.com/business/companies/japan-s-jfe-to-double-india-steel-capacity-by-2030-on-infrastructure-demand
  30. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC18BGP0Y6A310C2000000/
  31. https://www.jfe-holdings.co.jp/common/pdf/investor/library/group-report/2025/all.pdf
データと免責事項

この分析は、情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスを行うものではなく、投資判断の根拠となるものでもない。この報告書は、評価対象企業が自己申告した公開情報に対する執筆者の見解と解釈を表したものである。企業の報告については参考文献を掲載しているが、執筆者はそれらの企業が提供する公開の自己申告情報を検証することはしなかった。従って、執筆者は本報告書におけるすべての情報の事実の正確性を保証するものではない。執筆者およびTransition Asiaは、本報告書に関連して第三者が使用または公表した情報に関して、いかなる責任も負わないことを明示する。

著者
都築 さら

日本プログラムオフィサー

久保川健太

日本プログラム責任者

菅野 聖

リサーチアナリスト