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JFEの株主総会に向けて:インフォメーション・パック

JFEホールディングスは昨年来、事業の脱炭素化に向けていくつか重要な発表を行った。これは同社の公表済み目標に沿った前進であるとみることができる。JFEの粗鋼生産量は近年減少傾向で、これは今後も続いていくが、技術面では2030年以降は炭素のリサイクルとその活用に大きく依存していくものとみられる。ただ排出削減目標では、2040年以降も達成には至らない可能性が高い。

JFEの排出量サマリー

JFEの炭素削減計画は、COURSE50とSuperCOURSE50、水素(H2)還元製鉄、カーボンリサイクル(CCU)、炭素回収・貯留(CCS)の利用が主な構成となっている。こうした取り組みのうち、2030年ごろにまずCOURSE50が導入され、次いでSuperCOURSE50が続く予定である。H2還元製鉄の実用化は最後に置かれており、そのスケジュールはJFEがカーボンニュートラルを達成する予定の2050年ごろとされている1この他に電気アーク炉(EAF)とカーボンフリー電力についても触れているが、その能力や容量、タイムテーブルは今のところ不明である2

 

JFEの予想排出量は、2050年までのパスウェイを設定したIEAのロードマップを大きく2,200万トン上回る見込みで、2050年時点でのネットゼロ・レベルに対して6倍近い。JFEがIEAのネットゼロパスウェイに整合する事業への転換を目指すのであれば、高炉(BF)ではなく、再生可能エネルギーを動力とする大規模なEAF技術と、グリーン水素を用いたホットブリケットアイアン(HBI)を導入する必要がある。

排出パスウェイ分析

Transition Asia はJFEについて、排出原単位(粗鋼生産1トン当たりのCO2排出量)と排出総量の両方を分析した。結果はJFEがSBTiの提供する Iron and Steel Sectoral Decarbonisation Approach (SDA)やIEAのネットゼロパスウェイといった、グローバルでよく用いられるベンチマークからかなり外れた状況にあることを示した。これを図示したのが図1である。

 

図1:JFEの排出原単位(tco2/t)とSBTiのベンチマーク

  • 2030年までの排出原単位はいくらか上がり下がりはありつつも、基本的には低下の傾向を示した。これはBFの改修時期が重なることと、小型のEAFが導入されることが要因となっている。JFEの「公表済み方針」がその計画通り進んだと仮定したシナリオでは、排出原単位は2030年時点で粗鋼生産1トン当たりCO2換算1.9トンまで下がる。2022年比の率にしておよそ10%の削減である。

 

  • 一方、2030年以降を見てみると、SuperCOURSE50の導入や高炉‐転炉(BF-BOF)設備がいくつかEAFに置き換えられることも計算に入れると、排出原単位は1.3程度まで下がる。ただし、その低下ペースは2043年ごろからフラットに近いものとなる。これは現時点で公表されているものだけでは足りず、ほかに更に脱炭素化を進める取り組みが必要であることを示している。2050年までに要求される削減レベルから乖離してしまっているのも、そのような追加の取り組みがないためである。

 

  • 「ギャップ(%)」では急激な上昇カーブがみられるが、これは上で述べたようにJFEが現時点で公表している取り組みだけではベンチマークとの乖離が埋まらないということを示している。特に2050年に向かうにつれて上昇カーブの角度が指数関数的にきつくなっているのは、SuperCOURSE50の削減ポテンシャルが低いことが要因となっている。

 

図2:JFEの総排出量とIEAネットゼロパスウェイ

 

  • JFEは総排出量を2013年比で2024年までに18%、2030年までに30%削減する目標を掲げている。また、2050年にはカーボンニュートラルを達成するとしている3

 

  • Transition Asia による分析では、公表済み方針通りにBF-BOF設備の縮小とEAFの追加が行われ、排出削減が進んだ場合でも、2030年までの削減ペースは比較的遅いことが示された。その後、COURSE50が導入されるとともに新規のEAFが追加されていくことで、2030年ごろから総排出量の低下が始まっていく。

 

  • CCU技術については2030年ごろのテスト完了を目指し、またBF-BOFに比べて最大50%程度の削減ポテンシャルがあるとされるが、商業規模での実効性に関するエビデンスはない。

 

  • JFEの総排出量は2030年以降、同社自身の目標からもIEAのシナリオからも乖離し始める。これは先述した削減ポテンシャルの低い・不明確な技術に依存しているためである。

 

  • 2040年から2050年の間は、特に大型EAFやH2還元製鉄の生産能力・導入スケジュールが不明確で、これが排出削減ペースが減速する要因となった。

 

  • 2050年時点での総排出量は2,640万トンと、IEAのネットゼロパスウェイが要求するレベルを2,200万トン、6倍近く上回る結果となった。

昨年の株主総会以降に発表された脱炭素への取り組み

方向性電磁鋼板の生産・販売で印JSWと合弁を設立すると発表

同合弁は2027年にフル稼働を目指す。ただし、多少の前後があり得る4

 

CCS事業に関するフィージビリティスタディの開始を発表

CCSについてのフィージビリティスタディに関して関西電力とのMoUを締結。

 

HBIの輸送に関するMoU締結を発表

Emirates Steel Arkan、Abu Dhabi Ports Group、伊藤忠の3者とMoUを締結し、直接還元鉄のサプライチェーン構築を目指す5

 

水素の利活用に関するフィージビリティスタディの開始を発表

ENEOSとの間で「CO2フリー水素」に関する共同検討を開始。両社は技術開発や水素の受け入れ・貯蔵・供給設備にについて研究を行う。

 

グリーン水素を用いるe-FuelとCO2の船舶輸送に関するMoU締結を発表

日豪4社から成るコンソーシアムの一員として、日本における炭素回収と豪州への輸送、豪州でのe-Fuelの生産、その輸出などを含むサプライチェーンの構築など、広範なフィージビリティスタディを行う。

 

低炭素製品プロジェクトに割り当てる2,000億円の資金調達を発表

調達された約2,000億円は、倉敷のEAFをアップグレードするプロジェクトや千葉への新規EAF導入、印合弁への投資など、幅広い取り組みに割り当てられる。

付録
  • パスウェイ分析とは
    • Transition Asiaは、JFEがその保有する資産の脱炭素化に使う手段については、公表済み方針(Stated Policy, SP)シナリオを用いて分析・評価を行っている。この分析・評価は、JFEの公開情報に基づく。またSPシナリオは、セクター別のIEAネット・ゼロ・シナリオなど、様々なベンチマークと比較することができる。
    • CO2総排出量は単位を百万トン、やCO2排出原単位は単位を粗鋼生産量1トン当たりのCO2排出量としている。

    企業が公表済みの方針をモデルに統合しシナリオを設定する方法論

    JFEが公表している方針では、COURSE50、Super COURSE50、大型EAFの導入が主な脱炭素化ソリューションに含まれる。EAFの導入に関しては、パスウェイ分析モデルに全世界で稼働しているプラントベースのプロジェクトが主要な前提条件として組み込まれている。他方でCOURSE50とSuper COURSE50の実施計画に関するデータは、その導入年以降にしか手に入らない(COURSE50は2030年ごろから、Super COURSE50は2040年ごろから)。そこで、このモデルでは、異なる導入スケジュールを想定した2つのシナリオを設定している。

    • 公表済み方針シナリオ

    ここではJFEが保有する資産はそれぞれ独立した製鉄拠点であることを考慮しつつ、各々の改修スケジュールを統合的にまとめた。2030年から2040年にかけて改修・再稼働が予定されているすべてのBFは、その再稼働年からCOURSE50技術を導入すると仮定する。2040 年以降は、既にCOURSE50による削減効果を上げているBFに加えて、2040 年以降に再稼働予定のBFがCOURSE50の発展型技術であるSuper COURSE50 の恩恵を受けることになる。設備の再稼働年が2030~2040 年に集中するわけではないため、このシナリオにおいては2040 年の開始年になったからといってすべてのBFが一斉にSuper COURSE50を導入する、という想定はしていない。

    ベンチマーク

    IEAネット・ゼロ・シナリオ:IEAが公表している鉄鋼セクターにおけるCO2排出量ネット・ゼロを示すロードマップを反映させた6

    SBTi原単位目標:SBTiが提供している、鉄鋼業界向けの脱炭素化アプローチ目標を反映させた7

文末脚注
  1. JFE Sustainability Report 2023, https://www.jfe-holdings.co.jp/en/sustainability/pdf/sustainability2023e_A3.pdf
  2.  “カーボンニュートラル戦略説明会.” JFE Steel Carbon Neutral Strategy Briefing – Environmental Vision 2025, JFE , 1 Sept. 2022, www.jfe-steel.co.jp/company/pdf/carbon-neutral-strategy_220901_1.pdf. 
  3. JFE Group Integrated Report 2023, https://www.jfe-holdings.co.jp/en/investor/library/group-report/2023/pdf/all_A4.pdf
  4.  “About the Joint Venture Agreement to Establish a Joint Venture Company in India to Manufacture Grain-Oriented Electrical Steel with JSW Steel Limited.” 3 Aug. 2023, https://www.jfe-steel.co.jp/en/release/2023/230803-2.html.
  5. “JFE Steel, Itochu, Emirates Steel Arkan & Abu Dhabi Ports Group Sign MOU to Establish a Supply Chain of Ferrous Raw Material for Green Ironmaking with Low Carbon Emission.” 18 July 2023, https://www.jfe-steel.co.jp/en/release/2023/230718.html. 
  6. IEA (International Energy Agency)  (2023). Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep 1.5oC Goal in Reach. https://iea.blob.core.windows.net/assets/9a698da4-4002-4e53-8ef3-631d8971bf84/NetZeroRoadmap_AGlobalPathwaytoKeepthe1.5CGoalinReach-2023Update.pdf
  7.  SBTi Steel Target Setting Tool. ttps://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Steel-Target-Setting-Tool.xlsx
データと免責事項

この分析は、情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスを行うものではなく、投資判断の根拠となるものでもない。この報告書は、評価対象企業が自己申告した公開情報に対する執筆者の見解と解釈を表したものである。企業の報告については参考文献を掲載しているが、執筆者はそれらの企業が提供する公開の自己申告情報を検証することはしなかった。従って、執筆者は本報告書におけるすべての情報の事実の正確性を保証するものではない。執筆者およびTransition Asiaは、本報告書に関連して第三者が使用または公表した情報に関して、いかなる責任も負わないことを明示する。

私たちのチーム

久保川健太

日本アナリスト

ローレン‧ ヒューレット

プログラムマネージャー兼投資担当