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日本企業の気候変動対策: 日経225構成企業の二酸化炭素排出削減分析

日本の大手企業は、二酸化炭素排出量の削減に向けて力強い決意を表明してきた。しかし、十分な規模の排出削減を達成するために必要な意欲という点では、日本企業は遅れている。
要点
  • 総じて日本の大手企業(ブルーチップ企業)には、政府が掲げた46%という排出削減目標を達成するために必要な意欲が見られない。[1]
  • 日経225構成企業のうち、最も排出量の多い50社(多排出企業)は、日本政府が掲げる2030年の排出削減目標(調整後)である32%を達成できず、[2] 各社の公表シナリオでは12%の排出削減にとどまった。[3]
2030年までの短期的アプローチ

日本の政府と企業は、現在の目標と意欲のレベルを見直し、2030年までの短期目標を確実に達成するための意欲を示さなければならない。菅首相は2021年4月22日、日本の温室効果ガス排出量を2030年までに2013年比で46%削減するという計画を発表した。これを受けて、日本の当局は新たな目標の達成に必要な措置を講じた。それ以前の同期間の削減目標は26%だったことを考えると、46%という目標はきわめて意欲的と言える。新たな目標は、2050年までにネットゼロを達成するという長期目標の達成を見据えたものだが、国際NGOのクライメート・アクション・トラッカー(CAT)によれば、この目標もまだ十分ではなく、2050年までに気温上昇を2℃以内に抑えられる可能性は低いという。[4] [5]

2つのセグメント:ブルーチップ企業と多排出企業

日本の上場企業のうち、時価総額上位50社(ブルーチップ企業)と温室効果ガス排出量上位50社(多排出企業)に注目し、2030年目標の達成に必要な成果を確実に出しているか、日本の国家政策に沿った行動をとっているかを分析した。サンプル企業はすべて日経225構成企業である。

サンプル企業が掲げる2030年目標の中身は、基準年、目標年、目標削減量によって異なる。このため、各社の2030年までの目標削減量を年率換算し、絶対的な排出削減方針を明らかにすることを目指した。[6] また、2030年までに2013年比で46%の排出削減を達成するという日本政府の目標についても、発表からすでに1年半以上が経過しているため、年率換算して調整した。すでに達成された分を含まない、調整後の2030年の排出削減目標は32%である。

下の図はサンプル企業の現時点でのScope1、2、3排出量を、測定可能な絶対値による排出削減方針を持つ企業と持たない企業に分類して示したものである。排出削減方針を持つ企業については、さらに「削減目標」、「不足分」(政府目標との差)、「残余」(各社が公表した削減目標に含まれない排出量)に細分類した。排出削減方針を持たない企業の排出量は「方針のない企業の排出分」に分類した。

図表1はブルーチップ企業、図表2は多排出企業の結果を示している。

221222_JP_01_blue_chip_heavy_emitter

出典:ブルームバーグ、SBTi、各社のサステナビリティレポート、TA分析

意欲は重要だが、最も注目すべきは企業の行動

ブルーチップ企業が政府目標とほぼ一致した成果を上げているのは不思議ではない。日本のブルーチップ企業は、上位50社のうち19社が2050年までにネットゼロを達成することを目指すSBT(i SBTイニシアチブ、Science Based Targets initiative)に参加していることからもわかるとおり、日本は排出削減に意欲的である(ここでは行動ではなく意欲を測定している点に注意)。しかし、排出削減方針を持たない11社がブルーチップ企業全体の足をひっぱっている。

一方、多排出企業については様相が異なり、総じて政府目標を大幅に下回る成果しかあげられていない。多排出企業の多くは排出削減方針を定めているが、その内容は意欲的とは言えないものであるか、もしくは絶対削減量に関する重要な情報がなく、透明性に欠ける。

この程度の意欲度では、政府目標の進捗は今後もきわめてゆっくりとしたものとならざるをえない。企業は政府目標に沿った目標を定め、気候関連の目標とその進捗状況について、より透明性の高い開示を行っていく必要がある。

付録:分析手法

各社の現在の二酸化炭素排出量、および中期的な排出目標については、SBTi、ブルームバーグのデータ、および各社のサステナビリティレポートから収集した。排出目標、現在の排出量、基準年、目標年をもとに、削減目標を年率換算し、2030年までの残りの年数に適用することにより、現在の排出量を4つのカテゴリーに分類した。データは2022年10月中旬に抽出した。

目標は、Scope 1、2、3ごとに収集し、個別に分析した。ただしScope 3については、各社の情報公開に差があり、すべてのサブカテゴリーに関する目標は収集できなかった。Scope 1、2、3に関するデータはブルームバーグによる推定値を用いた。

2030年までに排出量を2013年比で46%削減するという日本政府の目標は、すでに発表から1年半以上たっているため、年率換算して調整した。調整の結果、2030年までの削減目標は32%、年率換算した今年度の削減目標は5.65%となった。[7]

ブルーチップ企業のうち11社は、多排出企業でもある。

Endnotes
  1. https://unfccc.int/sites/default/files/NDC/2022-06/JAPAN_FIRST%20NDC%20%28UPDATED%20SUBMISSION%29.pdf
  2. 2030年に46%の削減という目標を残りの年数を考慮して調整すると、2023年以降の目標は32%の削減、年率で5.65%となる。分析手法に関する付録も参照のこと。
  3. https://www.meti.go.jp/english/policy/energy_environment/global_warming/roadmap/
  4. https://www.mofa.go.jp/ic/ch/page1we_000104.html
  5. 同前1
  6. 分析手法については付録で解説してある。
  7. 同前3
作者

ボニー・ズオ、けんきゅうこうもくしゅかん

久保川 健太、日本アナリスト

ローレン・ヒューレット、プログラムマネージャー兼投資主担当