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鉄スクラップに関する解説

はじめに

鉄鋼は、品質を損なうことなく無限にリサイクルできるため、世界でリサイクル率が最も高い原材料である。リサイクルされるスクラップは、年間65,000 t以上に上る (プレコンシューマースクラップとポストコンシューマースクラップを含む)。この大量の鉄スクラップをリサイクルすれば、エネルギーと原材料を大幅に削減することができる。具体的には、新たな鉄鋼製品を生産する際に、鉄スクラップ1 tあたり鉄鉱石1,400 kg、石炭740 kg、石灰石120 kgの削減が可能である1

原材料への依存度を下げ、1.5C目標達成ラインに沿って排出量を削減するためには、鉄鋼生産においてスクラップの割合を増加させることが不可欠である。

スクラップの種類

鉄スクラップは高炉法 (BF) と直接還元法 (DRI)+電気アーク炉(EAF)プロセスの両方で使用されるが、メインとなるのは独立型 EAF 設備での使用である。鉄スクラップは、価格と品質によって3種類に大別することができる (自家発生 / リターンスクラップ、産業用 / 加工スクラップ、老廃 / ポストコンシューマースクラップ)。企業の取り組みを分析する上では、リサイクル鋼と鉄スクラップの違いを理解することも重要である。

自家発生 / リターンスクラップ

自家発生スクラップは、製鋼所内の生産工程で発生する鉄スクラップ (残材、トリミング屑など) である。一般に、自家発生スクラップは製鋼所内で即時にリサイクルされる。

加工 / 産業用スクラップ

加工スクラップは、下流の製造工程で発生する鉄スクラップである。産業用スクラップの量は、鉄鋼製品の消費量と関連している。ほとんどの産業用スクラップは、通常1年以内に製鋼所に回収され、その高い価値とリサイクルの容易さから長期契約によって取引されるのが一般的である。

老廃 / ポストコンシューマースクラップ

老廃スクラップは、鉄鋼を使った製品が寿命に達した時点で回収される。老廃スクラップの量は、各地域‧各業界のリサイクル時に用いられるライフサイクルや回収方法によって異なる。回収された老廃スクラップは粉砕、破砕、裁断され、磁石で分別されたあと、鉄スクラップを汚染する可能性のある製品から分けられる。鉄スクラップは、温度コントロールのために高炉から出銑した銑鉄 (製鋼用の投入材) とともに転炉 (BOF) に投入されるか、またはEAFに投入される。一般的に老廃スクラップに含まれる不純物元素は製品に不純物が混入する原因となるが、これらを除去するのはまだ技術的に難しい。

EAFのスクラップ

EAFには100%リサイクル材を投入でき、鉄鋼のリサイクル方法として世界で推奨されている。EAFの使用による主な排出源は送電網から電気を使用した際に排出される二酸化炭素であるが、これらは再生可能エネルギー由来電力を使用することで大幅に削減できる。

EAFの自家発生スクラップと加工スクラップ

世界の多くの地域では、EAFで作られる鉄鋼は自動車の部品といった特定の製品には使用できない低品質な鉄鋼とみなされている。要因としては、世界的にBF-BOF法が主流であることや、不純物元素が含まれる老廃スクラップからは低品質の鉄鋼しか生産できないことなどが挙げられる。しかし、安価な天然ガスが利用できる国やコークス用石炭の不足に悩む国ではDRI法が主流となっていて、EAFによる鉄鋼が国内消費者の求める品質レベルを満たしてきた。例えば米国、中東、インドのプラントである。ここでは自家発生スクラップや加工スクラップは単独で使用される場合と、高品質のスクラップにDRIを混合させる場合、またスクラップと一次製鉄で作られた鉄源との混合物にさらにDRIを混ぜて、不純物元素で汚染されていない鋼材を生産する場合とがある。

EAFへの投入材も重要だが、鉄鋼の品質を決定する上で極めて重要なのは技術である。Danieli (イタリア) のような鉄鋼プラントエンジニアリング大手は、高品質が求められる鉄鋼の生産についてもほとんどの場合でEAFが効果的に利用できるとしている。他方、EAFで得られる生産物はBOFで得られる生産物とは化学的に異なることから、高品質の鉄鋼を生産するにはEAFの生産を補完する二次精錬生産設備が不可欠である。

従来のEAF設備が長年にわたって高品位の鉄鋼製品を生産しているのにあわせて、BF-BOF法を採用してきた鉄鋼コングロマリットもこの事業に参入し始めている。現在、日本製鉄とJFEスチールはEAF用鉄スクラップ (電気自動車にも適した高品位の鉄鋼) を投入するEAFと二次加工設備を開発しており、注目が高まっている。

EAFの老廃スクラップ

EAFに使用される老廃スクラップは、低品位であっても許容される鉄鋼製品(建材など)に主に使用される。特に建設業界はこの種の製品から恩恵を受けている。例えば、トルコは世界最大の鉄スクラップ購入国であると同時に、世界最大の鉄筋生産国でもある。

スクラップの限界

自家発生スクラップと加工スクラップ供給面の制約

自家発生スクラップと加工スクラップの量は、本質的にバージン鋼(生産されたばかりで未利用の鉄鋼)の消費量と二次鉄鋼加工設備の効率と関連している。自家発生スクラップと加工スクラップは、鉄鋼生産量が多い期間は増加し、鉄鋼生産量が少ない時期は減少する。鉄スクラップの40%は自家発生スクラップと加工スクラップだが、二次鉄鋼加工の効率化が進むとともに、世界的に鋼材の蓄積が増えていることもあり、自家発生スクラップと加工スクラップの流通量は減少傾向にある。この種のスクラップが高く評価されるのは、不純物の汚染が少なくほぼ無限にリサイクルできるためで、老廃スクラップよりも高品質なものだが、供給量が少ない。

老廃スクラップ技術面の制約

スラグ (製鋼時の副産物) 形成によりほとんどの不純物を除去できるものの、老廃スクラップの処理にはまだ技術的な制約がある。スクリーニングや分離工程を経たとしても、老廃スクラップには表面処理などの要因によって極めて低い濃度で他の金属が微量に残ることがある。溶融金属から分離できない場合には、これらの不純物は、「不純物元素 (tramp elements)」と呼ばれる。この中で重大な問題をもたらすのは銅とスズで、鉄鋼に少量でも含まれていると、熱間圧延や成形時に表面亀裂を引き起こす。結果的に、これらの元素が含まれていることでリサイクル鋼材の生産時における品質と性能が低下することになる。このような制約があるため、老廃スクラップの大部分は建設業界向けの鉄筋などといった低品位の鉄鋼製品を生産する際に使用される。

老廃スクラップコスト面の制約

老廃スクラップの供給量は、2つの要因 (回収できる量と、企業がこのスクラップを効率的に収集‧加工できる速度) によって決まる。老廃スクラップのリサイクル工程では、人手と、加工に要するエネルギーに多額の費用が必要となる。さらに、企業は最終消費者から回収拠点、加工場、最終的に製鋼所まで老廃スクラップを輸送するのに伴う多額のコストを負担しなければならない。これらのコストの積算が、リサイクル業界が事業継続のために達成しなければならない老廃スクラップの最低価格に対する基準値となる。

老廃スクラップはまだ代替材と比べて魅力が乏しいため、その市場価格は鉄鉱石やコークス用石炭のコストと連動した状態が続いている。老廃スクラップが鉄鋼生産に使用される原材料の価格を決定する要素になるには、老廃スクラップの需要を供給量よりも高める必要がある。さらに、全体的なリサイクル費用が鉄鉱石やコークス用石炭の価格に対抗できるようにすることも求められる。

老廃スクラップの価格は、老廃スクラップの余剰在庫を抱えスクラップリサイクル産業が十分に構築されている米国のような国においても、常に溶銑生産コストに従って設定されている。

スクラップ市場の未来

鉄スクラップ由来の鉄鋼は粗鋼総生産量の20%に相当し、そのうち約60%が老廃スクラップによるものである。鉄鋼生産と仕上げ工程の効率化によって、2050年に向けて老廃スクラップの市場シェアは拡大し続け、理論上は約75%に達するというのが大方の予測だ。資源循環という観点から考えると有益であるが、不純物元素の濃度を0.25%以下に引き下げられるようなソリューションが導入されない限り、老廃スクラップ=低品質という産業界2の見方は変わらない。これは今も加工プロセスに乗せる前に行われるスクラップの選別過程においてその効率が十分でなく、溶解するときの希釈率(他の鉄源と同時に溶解して「薄める」)も低いためで、現時点における老廃スクラップベースの鉄鋼では品質要件を満たせず、結果として一次鉄鋼への依存度が高まり、スクラップ使用率が低いまま推移していくおそれがある。

希釈によるスクラップ使用率の引き上げ

スクラップから不純物元素を精製‧除去する方法はいくつかある (品質を向上させるために鉄スクラップの不純物をDRIで希釈する方法を含む)。特に米国の製鋼所では、不純物元素やその他の不純物の総量を低減する手段としてDRIが使用されている。EAFには銑鉄も使用できるが、輸送が困難で、BFに関してはニアゼロエミッションで生産するための明確な技術的方法が確立されていない。

不純物元素の選別と除去

汚染された鉄スクラップの処理を専門とするリサイクルプラントはパイロットプロジェクトレベルで数か所稼働しているが、この技術が2050年までに大規模に展開される可能性は低い。それよりも簡単にリサイクル鋼材の使用率を高め、用途を拡大できる方法としては、使用済みスクラップの選別を強化したり、製品の銅の使用量を減らしつつ製品寿命に到達した時点で容易に解体できるように設計することなどがある。

鉄スクラップの需要

鉄鋼業界に対しては、鉄鋼集約型産業から脱炭素型の鉄鋼製品を求める需要側としての明確なシグナルが送られている。米国では、炭素集約度の低いDRIと高品位のスクラップを混合するハイブリッドEAFが長年にわたって自動車産業に鉄鋼を供給してきた。各国で締結され始めているグリーンスチールに関するオフテイクフレーム契約 (SSABVolvoFord EuropeTataの間で締結され注目を集めた契約など) は、BF-BOF法による粗鋼生産を転換する必要性を示す一例といえる。

一方、DRIは特にホットブリケットアイアン (HBI) の形で輸送するのに適していることから、鉄鋼企業は高品質の鉄鋼製品を生産するために、この機会を利用して高品質のEAFと二次加工設備に投資する必要がある。また、新規投資に係るリスクヘッジを重視するのなら、スウェーデンの鉄鋼大手SSABがVolvoと結んだパートナーシップのような、需要側企業とのオフテイク契約も選択肢の1つだ。同様に、早期に事業を転換する余力がある業界 (例、自動車業界や海運業界) の先進的企業については、低炭素かつ高品質の鉄鋼を供給できる鉄鋼企業とサプライチェーンの構築を図る必要がある。

欧州ではカーボンリーケージを抑制しつつ域外における低炭素鉄鋼政策を促進するために事実上の関税を課す「炭素国境調整措置 (CBAM)」が導入された。米国でも同様の措置が検討されている。鉄鋼の輸出国は、自国の鉄鋼製品がこの措置の対象とならないように対策を講じる必要がある。現時点でCBAMに対応しつつ鉄鋼業界の脱炭素化で求められる条件を満たす最も効果的な方法としては、鉄スクラップを主原料とするか、鉄スクラップにプラスして必要に応じた量の水素由来DRI(水素直接還元鉄)を同時投入する方法であることが証明されている。

Endnotes
  1. ファクトシート – 鋼鉄および原材料、World Steel Association、worldsteel.org/wp-content/uploads/Fact-sheet-raw-materials-2023.pdf 2023年8月18日閲覧。
  2. Dworak, S., Rechberger, H. and Fellner, J., 2022. How will tramp elements affect future steel recycling in Europe?–A dynamic material flow model for steel in the EU-28 for the period 1910 to 2050. Resources, Conservation and Recycling, 179, p.106072.